タイでは、事実上の同性婚を認める制度の実現に向けた動きが進んでいます。偏見に直面しながら制度の実現を求めてきた当事者たちの中には日本人の姿もありました。
バンコクの広告代理店で働くワランパさん27歳。彼女は、女性のパートナーを持つ同性愛者です。
「この法案はタイ政府が性の多様性を認め、全ての人々に基本的な人権を提供しようとするものだと思います。その点は評価できます」(ワランパ・ラオプラサートさん)
ワランパさんが評価するのは、タイ政府が先月承認した「市民パートナーシップ法案」。同性カップルに結婚とほぼ同等の権利を認めるもので、近く成立する可能性が高いとみられています。ただ、ワランパさんは…。
「なぜ同性カップルは『結婚』ではなく『パートナーシップ』なのでしょうか?私たちの結婚と通常のカップルの結婚との違いは何ですか?」(ワランパ・ラオプラサートさん)
2001年のオランダを皮切りに、欧米を中心に多くの国が同性婚を実現させています。しかし、アジアではまだ例はなく、結婚とは区別された「パートナーシップ制度」ですら、去年5月に台湾で初めて導入されました。日本では50を超える自治体が「パートナーシップ制度」を認めてはいますが、法的保障を伴わないもので、台湾などの制度とは全く別のものです。
一方、タイの法案は17歳以上であれば性別を問わずに登録でき、パートナーの遺産を相続する権利や血縁以外との養子縁組が認められています。台湾の制度では国際カップルの場合、相手の国が同性婚を認めていなければ、登録を受け付けないことになっていますが、タイの法案ではその条件もありません。
「台湾の制度よりも同性婚に近い内容となったタイのパートナーシップ法案。そこに期待を寄せる日本人がいます」(記者)
「彼の方から僕たち結婚できるよって聞いたんですね。それでいろいろニュースとか調べて」(YUKIさん〔仮名〕)
兵庫県出身のYUKIさん(仮名)は、日本で知り合ったタイ人の男性とパートナーになり、2年前、男性の帰国に合わせてタイに移住しました。日本では関係をオープンにしていませんでしたが、今はバンコクのコンドミニアムで一緒に暮らし、腕を組んで街を歩いても周りの目は気にならないといいます。
「おいしいよ、これ」
愛するパートナーと法律で認められた家族になれるかもしれない。胸に希望がこみ上げますが、そのことを日本にいる両親に報告するつもりはないといいます。
「(親は)“ゲイとかレズは病気だから治せる”というふうに思っているんですよね。病院に行ってももちろんどうすることもできないし、病気だとももちろん思っていないので、そういう知識を日本人に持ってもらいたいな。そうすることによって、もっと偏見がなくなっていくのかなと」(YUKIさん〔仮名〕)
多様な性があることを知り、理解してほしい。ワランパさんも、そう訴えます。
「もちろん同性婚を求める声は多いですし、成立すれば社会は良くなるでしょう。でも私が本当に社会に求めるのは“理解”です。法律ができても人々が私たちを理解しなければ差別は続くでしょう」(ワランパ・ラオプラサートさん)