イギリスでも、アメリカに触発される形で反人種差別運動が盛り上がりましたが、その背景には、新型コロナで改めて人種間の不平等が浮き彫りになったことがあります。
7月3日、ロンドンの首相官邸前で、新型コロナで亡くなった医療・介護従事者の名前を読み上げる抗議行動が行われました。
「エドモンド・アデデジ」
「レオ・サンディ・ムジヴァラ」
「マンジート・シン」
その中には、人種マイノリティーの人たちの名前がたくさんありました。公的医療サービスであるNHSの職員のうち、マイノリティーの人たちは20%程度です。しかし、新型コロナで亡くなった職員に限ると、マイノリティーの割合は60%に達します。感染リスクの高い仕事を多く担当していることが一因だとみられます。
「黒人らマイノリティーの職員は、看護助手や清掃員といった低賃金労働に非常に多く就いています。医師でも患者の診察の多くは、マイノリティーの医師がやっています」(医師 ソニア・アデサワさん)
「マイノリティーは不満を言いづらい。言えば処罰されたり、失職したりする可能性が高い」(臨床心理士 アーリア・バットさん)
医療分野だけではありません。最新の統計によれば、社会全体で見ても、黒人男性が新型コロナで亡くなるリスクは白人男性の3.3倍。バングラデシュ・パキスタン系の場合は2.5倍です。
バスやタクシーの運転手、警備員、といった職業は新型コロナで亡くなるリスクが高いことが統計上明らかになっていますが、マイノリティーの人たちはこうした仕事に多くついています。
「彼らはイギリスに職を求めて来ました。“母なる国”の繁栄のために働くつもりです」(1948年の映像)
イギリスは、戦後の労働力不足を補うために、植民地から大量の移民を招き入れました。彼らの多くは医療・交通といった公共サービスの仕事につき、イギリス社会を支えてきました。
その流れは現在に至るまで続いていますが…。
「いまだにマイノリティーだとキャリアアップが困難で、要因の1つは差別です。最下層の現場労働に固定され、感染・死亡リスクが高くなっている」(社会運動家〔ジャマイカ移民2世〕 パトリック・ヴァーノン氏)
ロンドンで人口当たりの新型コロナの死者数が多いエリアは、貧困率が高く、また白人の人口比率が低いエリアです。
ジョンソン首相もチャールズ皇太子も感染したため、「ウイルスは差別しない」などとも言われましたが…。
「ウイルスそれ自体は差別しません。でもその影響には“差別”があります。新型コロナは社会の不平等を改めて見せつけたのです」(社会運動家〔ジャマイカ移民2世〕 パトリック・ヴァーノン氏)
今週、イギリス政府は人種別の新型コロナの影響についての研究に、日本円にして数億円を拠出すると発表しました。
6月のブラック・ライブズ・マターのデモ。立ち往生したバスから、デモ隊への支持を表すクラクションが聞こえてきました。黒人の運転手でした。彼はデモ隊が通り過ぎるまで、クラクションを鳴らし続けていました。