【現場から、】平成の記憶


2019年4月10日
皇后さまを支えた本

4月10日で、皇室に嫁いで60年を迎えられた皇后さま。この間、多くのつらい経験もありましたが、子ども時代に接し、本にもなったある童話が皇后さまの支えになっていました。

「あの日、民間から私を受け入れた皇室と、その長い歴史に傷をつけてはならないという重い責任感とともに(略)、私もそこに生を得た庶民の歴史に傷を残してはならないという思いもまた、その後の歳月、私の中に常にあったと思います」(皇后さまの誕生日文書 2004【平成16】年)

皇室に嫁いだ覚悟を、かつて、こう表現されていた皇后さま。絶えず、困難な状況にある人たちに寄り添い続けてこられました。そんな皇后さま自身もつらく苦しい経験がありました。1993(平成5)年、世間からのバッシングなどにより、一時的に声を失われたのです。皇后さまと長年親交がある絵本編集者の末盛千枝子さんは、このとき、皇后さまの支えになったものがあったと話します。

「ストレスで声を失うなんていうことは、私たちには中々考えられないことじゃないですか。精神科医の助けを借りることはできないんでしょうかと、お聞きしてしまった。あんまりに大変だと思って」(皇后さまと長年親交がある 末盛千枝子さん)

皇后さまは末盛さんに、子ども時代に接し、本にもなったある童話の話をされたといいます。

「ほとんど聞こえないような小さいお声で、『でんでんむしのかなしみ』の話をしてくださった」(皇后さまと長年親交がある 末盛千枝子さん)

そのタイトルは、「でんでんむしのかなしみ」。

「わたしのせなかのからのなかには、かなしみがいっぱいつまっているではないか」

ある日、一匹のでんでん虫が、自分の殻の中に悲しみが詰まっていると、別のでんでん虫に相談します。別のでんでん虫たちからは次々と、自分の背中にも悲しみは詰まっているとの答えが返ってきて、最後には嘆くのをやめるという話です。

「かなしみはだれでももっているのだ。わたしばかりではないのだ。わたしはわたしのかなしみをこらえていかなきゃならない」

「つらいのは自分だけではないということをお感じになったんじゃないでしょうか。この方は、こんな大変なことをこういうお話で乗り越えようとしていらっしゃるんだと。4、5歳のときに、おじさまかおばさまからお聞きになって、それ以来ずっと心の中に大切なものとしてあったようなんですね」(皇后さまと長年親交がある 末盛千枝子さん)

東日本大震災の際に、皇后さまが岩手県に住む末盛さんを通じ、子どもたちに届けたものも絵本でした。

「私はこういうもの(絵本)を通して力をもらってきましたよということを誰かに伝えることによって、相手の人もそれをもらえるということじゃないかと」(皇后さまと長年親交がある 末盛千枝子さん)

民間初の妃として皇室に嫁がれた皇后さま。陛下と共に国民に寄り添うことを目指してきた、その道のりを、去年、こう表現されています。

「皇太子妃、皇后という立場を生きることは、私にとり決して易しいことではありませんでした。与えられた義務を果たしつつ、その都度新たに気付かされたことを心にとどめていく。そうした日々を重ねて、60年という歳月が流れたように思います」(皇后さまの誕生日文書 2018【平成30】年)