【現場から、】平成の記憶


2019年3月25日
笹子トンネル事故 ~再発防ぐために

今回は、平成24年に中央道・笹子トンネルで起きた天井板崩落事故です。事故から6年あまり、同じような犠牲者を出さないために遺族の活動は今も続いています。

平成24年(2012年)12月2日。山梨県の中央道上り線、笹子トンネルで、天井板が138メートルにわたって突然、崩れ落ちました。走行していた3台の車が下敷きになり、9人が死亡。老朽化する構造物の維持管理に警鐘を鳴らしました。

6年あまりがたった先月、事故現場近くのパーキングエリアで桜を植樹する遺族の姿がありました。

「娘たちの命をつなぐ意味でも有意義な植樹」(笹子トンネル事故の遺族 松本邦夫さん)

松本さんの娘・玲さん(当時28)は、あの日、東京のシェアハウスの友人と一緒にワゴン車に乗っていて巻き込まれました。炎に焼かれ、黒く色が変わった腕時計。玲さんの遺品です。

「非日常の時間の中に放り込まれてしまった始まりの日」(娘・玲さんを亡くした松本邦夫さん)

松本さんら遺族は、トンネルを管理する中日本高速道路を訴える民事訴訟を起こし、裁判所は、適切な点検をする義務を怠ったとして、会社側の過失責任を認め、4億4000万円を遺族に支払うよう命じました。しかし、役員個人を訴えた裁判では過失責任は認められませんでした。

こうした中、事故の教訓を生かす取り組みが始まりました。事故からおよそ1年半後に道路法が改正され、全てのトンネルや橋などへの丁寧な点検が義務化されたのです。

一方で、刑事事件としては当時の社長らは不起訴処分に。遺族らは、処分は不当として検察審査会に審査を申し立てています。

「責任を明らかにしないと、また同じような事故が起こってしまう。再発を防ぐために必要な方法として我々がとれるのは、組織罰を実現すること」(娘・玲さんを亡くした松本邦夫さん)

松本さんが実現を目指す“組織罰”とは、企業などが関わった重大な事故で過失があった職員がいた場合、その組織にも多額の罰金を科し、事故の抑止を目指すものです。

松本さんは、乗客ら107人が亡くなったJR福知山線の脱線事故の遺族らとともに、組織罰の実現を求め、去年10月には1万人の署名と請願書を法務大臣に提出しました。

「これ以上、遺族を増やしたくない」(娘・玲さんを亡くした松本邦夫さん)

事故の風化を防ぎ、玲さんのような犠牲者を出さないために、松本さんの活動は続きます。

「このくらいの歳だったら、こんなことしてたかもしれないなとイメージを膨らませることは、やり続けるのではないかなと思います。僕の中で、やっぱり生きてるってことですよ」(娘・玲さんを亡くした松本邦夫さん)

「平成の記憶」取材後記

誰が被害者になってもおかしくなかった。身近で起きた事故の一報を聞いたとき、最初に思ったことです。

松本さんは“組織罰”について「組織を罰することが目的ではない」と話します。安全対策を十分行っていたことを立証すれば組織が免責されることを内容に盛り込んでいるからです。つまり、こうした仕組みを作ることで安全対策を強化させ、重大事故の未然防止につなげる狙いなのです。

ただ、賛同する署名は簡単には集まらなかったため、まだまだ理解を得ていく必要があると話していました。

自らが悲しみを抱えながらも、事故による被害者や遺族を出さないために、松本さんは“組織罰”実現の活動をライフワークと位置づけています。

記者:中込信行

テレビ山梨 2005年入社