虐待死ゼロに向かって

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2019年5月14日放送

結愛ちゃん元主治医の訴え

これ以上、児童虐待で命を落とす子どもを出さないために。いま声をあげ始めた1人の女性がいます。彼女は、悲痛な手紙を残して亡くなった5歳の少女の主治医でした。

先月、小児科の医師たちを中心に児童虐待の問題を考えるシンポジウムが開かれました。
タイトルは「目黒事件に学ぶ」。

「もうパパとママにいわれなくても、しっかりとじぶんから、きょうできないことも、あしたはできるようにするから。もうおねがい。ゆるして、ゆるしてください」(結愛ちゃんが残した手紙)

去年3月、東京・目黒区で5歳の船戸結愛ちゃんが両親の虐待を受けて死亡した事件。 2度も一時保護されていながら命を救うことができず、結愛ちゃんが書き残した悲痛な手紙の内容は、社会に大きな衝撃を与えました。

この日、強い思いを持って登壇した1人の小児科医がいました。
「私はこの事件を聞いたときに、あまり驚かなかった。そして、自分をすごく責めました」(木下あゆみさん)

木下あゆみさん。
結愛ちゃん一家が東京に引っ越す前、まだ香川県にいた時、一時保護をきっかけに結愛ちゃんを定期的に診察していた「主治医」です。

事件をめぐって国の検証報告書は、児相のリスク判断が不十分だったなどと指摘しましたが、木下さんは、自分が抱いていた危機感を他の関係機関と共有する難しさを語りました。

「私自身はすごく危機感を持って、緊張感を持って関わっていたけれども、それがちゃんと関係機関に伝わっていたのか。伝わっていたと思い込んでいるのは、私だけだったんじゃないか。あと、転居先の児相に私はすごく心配で連絡もしたけど、もっとちゃんとかみ砕いて説明すべきなんじゃなかったのかな。私の伝え方が悪かったんじゃないのかなと、今でも自分に問い続けています」(木下あゆみさん)

木下さんが勤める香川県内の病院。
「こちらが患者さんのお母さんとか、いろいろな相談や話をしたりするときに使う部屋」(木下あゆみさん)

ここでは、育児相談に使う部屋のそばに、子どもが遊べるスペースが作られていて、スタッフが見守るようにしています。

木下さんが勤める香川県内の病院です。
「(Q.これは何ですか?)これは『気になるシート』」(木下あゆみさん)

子どもや親の様子で気づいたことを病院の職員なら誰でも記入できる「気になるシート」。 病院全体で子どもや親を見守ることを呼びかけています。

木下さんは虐待を防ぐ体制作りに20年近く関わり、警察や児相、市町村などと“顔が見える連携”も進めてきました。
「香川県とか、この地域では、それなりに形を自分の中で作ってきたつもりだったんですね」(木下あゆみさん)

自分の危機感は、なぜ関係機関に伝わらなかったのか?
木下さんは「あざがある」という言葉ひとつでも関係機関によって、実は受け止め方が違うと感じるようになったと言います。

「『ここにあざがあるのは非常に重大だよ』と。きっと児童相談所とか警察とか、他の医療機関じゃない人たちが思う『あざ』と、私たち医療機関が言っている『あざ』はすごく意味合いが違う」(木下あゆみさん)

あざの位置や不自然さが、虐待の危険度を推し量る上で重要な目印になるのです。
「結愛ちゃん事件の主治医でございます」(自民党・塩崎恭久衆議院議員)

今年2月、木下さんは事件をきっかけに立ち上がった児童虐待問題の与野党勉強会に招かれ、結愛ちゃんの主治医であることを初めて公にしました。そして、児相などに医師を配置し、子どもを直接診察した医師の危機感が確実に共有される仕組みや、全国どこに引っ越しても、変わらずに親子を支える体制の必要性を訴えました。

「第2、第3の結愛ちゃんを出さないために、何をしたらいいのかなとずっと考えていて。 『亡くなっちゃってかわいそうでしたね』で終わると、次も同じことを繰り返すし、何の進歩もない。亡くなったことはすごく悲しいが、それをどう生かしていくか、次に。そこは取り組みとして絶対いるところだと思う」(木下あゆみさん)

国会で審議が始まった児童福祉法改正案では、児童相談所への医師と保健師の配置も義務づけられています。

結愛ちゃん事件から1年3か月。
大きな一歩を踏み出すために、木下さんは声を上げ続けようと考えています。

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