【現場から、】なくせ!危険運転

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2018年6月2日 放送

あおり運転が奪った命

車の流れが途切れることのない「東名高速道路」。
1年前のこの場所で、あの事故は起きました。

追い越し車線で大破したワゴン車。スライドドアは事故の衝撃で飛ばされていました。 亡くなったのは萩山嘉久さん(当時45)と妻の友香さん(当時39)です。

「あらまー。思い出すね」(嘉久さんの母・文子さん)

今年に入って、嘉久さんの服が、警察から、母・文子さんのもとに返されました。
「うーん、こんなにひどい服」(嘉久さんの母・文子さん)

上着には、いまも大量の血の痕が生々しく残っています。
ぼろぼろになった靴下も衝撃の大きさを物語っています。

悲惨な事故を引き起こしたのは石橋和歩被告(26)によるあおり運転。
発端は東名高速のパーキングエリアでの出来事でした。

久さんはパーキングエリアを出る際、道をふさぐように停まっていた石橋被告の車に「邪魔だ」と注意しました。 すると、石橋被告は嘉久さんたちを追いかけ、前に割り込んでスピードを落とすなどの行為を繰り返し、追い越し車線に無理やり停車させました。 そして、石橋被告は同乗していた女性と車に近づき、嘉久さんを引っ張り出そうとしたり車の中に押し倒したりするなど暴行。石橋被告らがその場を去ろうとしたところにトラックがよけきれず突っ込みました。

家族旅行の帰りだった嘉久さん一家。
2人の娘だけが、ワゴン車の中で、奇跡的に助かりました。

「(父・嘉久さんは)すごいいい人で、いつも私たちのために仕事をしてくれて、 すごい旅行もつれていってくれたし、なんか自分の事より家族とか私たちのことを いつも考えてくれてて」(嘉久さんの長女)

事故から1年。私たちの取材に長女(当時高校1年)が手紙を寄せてくれました。
そこには、今もなお、胸の中に深い傷が残っていることが綴られていました。

「事故のことは毎日思い出してしまいます。あおり運転なんて概念はなかったので、道路で止まっているときに、父が殺されてしまう。連れて行かれてしまうと思って見ていたことがすごくトラウマです。

やめてと言っても、泣いてもやめてくれなかったことが本当に怖かったです。自分でもよくここまで生きていたと思います。時間がたつにつれて、楽になっていくと思っていたけれど、けっしてそんなことはなくて、毎晩思い出してしまうので、今でもつらいです。

石橋被告について反省しないなんてあり得ません。自分を守る謝罪ならいらないけれど、心から何か思っているのであれば 聞いてみたいとは思います。」

石橋被告はいま何を思っているのでしょうか?
私たちは拘置所を訪ねました。

とんでもない事故を起こした石橋被告とはどんな人間なのか? 東名高速で起きた夫婦死亡事故。 執拗なあおり運転を行った石橋和歩被告は 危険運転致死傷罪で起訴されています。

逮捕前、私たちの取材にこう答えていました。

(Q.なぜ追いかけていった?パーキングから?)
「やっぱ言われたらやっぱこっちもカチンとくるけんですね、人間やけん」(石橋和歩被告)

事故発生からまもなく1年。 横浜拘置所にいる石橋被告が面会での取材に応じました。

(Q.私のことは覚えていますか?)
「うん、逮捕の前になんか俺のこと報じたやろ。こいつぶっ殺そうと思ったけん」(石橋和歩被告)

右手を口に当て、ぶっきらぼうに切り出した石橋被告でしたが、終始落ち着いた様子で受け答えした。

(Q.事件から一年、今の気持ちは?)
「悪いことをしたと思っとる。やり過ぎたなと思っとる。高速上で無理矢理停めてしまったことが。止めなきゃよかった」

(Q.被害者への謝罪の気持ちは?)
石橋「ここを出たら謝りに行きたいと思っとる」(石橋和歩被告)

遺族に謝りたいという石橋被告。
事故に至った理由については逮捕前と同じあの言葉を繰り返しました。

(Q.事なぜあんな危険な運転をしたんですか?)
「かちんと来たけん」(石橋和歩被告)

かちんと来た・・・それが、あそこまでの“あおり運転”にエスカレートしたのはなぜなのでしょうか。

今週火曜日、石橋被告との面会に、臨床心理学者の長谷川博一氏に同行してもらいました。

「事故の理由はカチンときたからということですか?」(長谷川博一氏)
「そうですね」(石橋和歩被告)
「危険な運転をしたことはたくさんありますか?」(長谷川博一氏)
「5,6回くらい」(石橋和歩被告)
「カチンときたときの頭の中はどんな感じ?」(長谷川博一氏)
「どんなんかな。考えたことないっすね」(石橋和歩被告)
「血が上る感じ?」(長谷川博一氏)
「そうですね」石橋和歩被告)
「頭の中が白くなるような?」(長谷川博一氏)
「ありますね」(石橋和歩被告)
「白くなると、普段の性格と変わる?」(長谷川博一氏)
「たぶん、変わる」(石橋和歩被告)
「どんな風に?」(長谷川博一氏)
「・・・・・・」(石橋和歩被告)

この時も石橋被告は右手を口にあてていました。 面会は30分ほど。長谷川氏の印象は――。

「人見知りするような感じで、小声でしゃべる、口数少ない、おとなしい、ですね。で、自分からあまり言わない、積極性にちょっと乏しいというような」(長谷川博一氏)

書面を差し入れて行った心理テストでは、のびのびとしたところがなく、目立ちたがらないなどの傾向が出ました。

「普段の姿とカチンときたときの後の行動というのがすごくギャップが激しい」(石橋和歩被告)
「かっとなっていないときと、かっとなったときが極端に入れ替わる」(長谷川博一氏)

面会の中では、こんなやりとりがありました。
「小さいときお父さんお母さん仲よかった?」(長谷川博一氏)
「しょっちゅうけんかしてた。オヤジが手を出したりですね」(石橋和歩被告)

「両親の関係聞いたら自発的に応えた。『しょっちゅうけんかしてた』というのはポンとでてきたんですね。あれはびっくりしたところでもあるんですが」(長谷川博一氏)

石橋被告は東名高速の事故以外にもあおり運転によるトラブルを複数 起こしています。そのほとんどで、女性を助手席に乗せていたことも注目すべき点だと長谷川氏はいいます。

「自分が、弱いんだとか負けてしまっているんだというところを親しい人に見られるという、そこの抵抗感というのは強い。そういう状況になったときに、よりかちんとなりやすいのではないかと、自分は決して弱くはないんだと」(長谷川博一氏)

去年6月、事故発生の1週間後にJNNのカメラが捉えた警察による大がかりな実況見分の映像です。
警察の施設に嘉久さんのワゴン車、追突したトラック。 そして、石橋被告の白い車などが集められていました。 事故で自らもけがをし、松葉杖をついていた石橋被告の姿も・・・。

当初は「相手があおった」と言っていた石橋被告。 警察は4ヶ月に及ぶ捜査の末、石橋被告の車のカーナビ記録の解析などを行い、異常なあおり運転の詳細を解明し、逮捕に結びつけました。

今回の事故をきっかけに、あおり運転が社会問題化したのを受けて、全国の警察でいま徹底した取り締まりが進められています。普及が進むドライブレコーダーも、“あおり運転”を取り締まる新たな切り札になっています。

ですが、交通捜査の実務に詳しい元千葉県警の熊谷宗徳氏は、今の法制度にはまだ問題があると指摘します。

「今の法律では、いくら危険な運転をしたということで通報を受けてそこに行ったとしても、その場でできることっていうのは正直ないんですよ」(元千葉県警・熊谷宗徳氏)

事故の1か月前、石橋被告は山口県であおり運転によるトラブルを一晩に3件も起こしていました

一件目は午後8時すぎ。
石橋被告は、追い越しをした車に対してあおり運転を始めました。 交差点に入るところで、右側に入って、進路を妨害。 その後もクラクションを鳴らして執拗に追跡。 前に入り込んで、無理矢理停車させると・・・。

「降りてきて車のドアをがんがんって殴るなり、『出てこい!けんかするぞ!』みたいな感じで脅してきたという状態ですね」(被害にあった男性)

その5時間後には、石橋被告は追い越そうとした車に対し妨害行為を3回繰り返して、最後はまた無理矢理停車させました。そして、車から降りるとドアを蹴るなどしてきたといいます。

「この3か所だったと思うんですよね。『調子に乗るなよ』ってことを言っとったのは覚えています」(被害にあった男性)

東名高速の事故の1か月前に一晩で3件も繰り返されていた危険な運転。 この段階で即座に免許を停止することはできなかったのでしょうか?  元千葉県警の熊谷氏は、今の法制度では難しいと話します。

「どう考えてもできないですね。免許を停止させる、即座に停止させることができるのは、悪質な故意による交通事故を起こして人を死傷させた場合のみなんです」(元千葉県警・熊谷宗徳氏)

そもそも、道路交通法には「あおり運転」に直接該当する条文がありません。 そのため、交通違反の点数を積み重ねて取り締まるしかないのが実情です。

「“あおり運転”っていう条文がないんですよ。何に該当するかというと“車間距離不保持”ていう違反になりますよね。それだと(違反点数は)高速道路でもせいぜい2点なんですね。一般道だと1点にしかならない。累積6点まで累積しないと免許停止にもなりませんし。気持ちとしては、警察官はそういう危険な行為をする、またこいつは絶対やるだろうと思って、免許を取り上げたいと思ってもそういう法律がないんですよね」(元千葉県警・熊谷宗徳氏)

先月、萩山嘉久さんと友香さんの一周忌が地元静岡で営まれました。 そこに参列していた男性。嘉久さんの親友、田中克明さん(46)です。 田中さんが訴え続けていることがあります。

「殺人罪としか思ってないから。交通事故じゃないから」(田中克明さん)

被害者にとっては事故ではなく事件、過失ではなく悪意によって引き起こされたのであって、殺人に等しいと田中さんは考えています。

「萩山の名誉を守るというか、事故して死んだんじゃなくて殺されたんだよっていうのを世間の人に知ってもらいたいっていう」(田中克明さん)

石橋被告が問われているのは危険運転致死傷罪。 この罪の適用が認められるかどうかがこれからの裁判の最大の争点です。

危険運転致死傷罪は1999年、東名高速で飲酒運転のトラックが乗用車に追突。 幼い姉妹が焼死した事故をきっかけに作られました。

それまでは、最高で懲役5年の業務上過失致死傷罪にしか問えなかった飲酒運転などによる悪質な事故に対してより重い刑罰をかすことが可能となりました。 現在、過失運転致死傷罪は最高で懲役7年。 危険運転致死傷罪は最高で懲役20年を科すことができます。

しかし、今回の石橋被告の裁判では、危険運転致死傷罪が適用されない可能性もあると指摘する専門家もいます。

「素直に条文解釈をするとかなり適用が難しい事案」(首都大学東京・星周一郎教授)

法律の条文に、危険運転致死傷罪は「車を走行させる行為」によって起きた事故に適用すると定められています。 今回、後続のトラックが突っ込んだのは、車を停止させてからおよそ2分後。このため、条文を厳密に解釈すれば適用は難しいという見方があるのです。

「裁判所がその検察官側の主張をそのまま認めて、危険運転致死傷罪を適用するかどうかというのはちょっと難しい面も残るかもしれないと思っておりまあす」(首都大学東京・星周一郎教授)

実際、条文を厳密に解釈し、危険運転致死傷罪を認めないケースが相次いでいます。 無免許でも「運転には慣れていたので適用できない」。 飲酒運転でも「正常な運転が困難だったとはいえないので適用できない」などとされたケースもあります。 「危険運転致死傷罪」の適用は、過失運転致死傷罪のおよそ1000分の1にすぎません。

「危険運転致死傷罪の対象を“真に危険な運転に限る”といいましたので、 実際、法律上定められている類型がかなり絞り込まれていると。法律上、危険運転致死傷罪に該当しなければ、全部過失運転という形で軽く処罰しなければいけない。そこに対する違和感といいますかそういったものがやはり現在問題点として大きく残されているのではないか」(首都大学東京・星周一郎教授)

海外では、危険な“あおり運転”にどう向き合っているのでしょうか?
イギリスには“あおり運転”などを禁じる危険運転罪が存在します。

日本の危険運転致死傷罪は、死者やけが人がいる場合にしか適用されません。 一方、イギリスの危険運転罪は、死者やけが人の有無に関わらずあおり運転など危険な運転をしただけで罰せられるのです。

警察が撮影した映像です。
後輪だけで高速道路を走るバイク、体操をするような仕草も・・・。スピードは制限速度を大幅に上回る時速180キロ以上に達していました。 事故には至りませんでしたが、男には「危険運転罪」により禁錮8か月と免許剥奪2年半の判決が下されました。

もし同じケースが日本で起きていたら、安全運転義務違反や速度違反で免許停止にはできても、実刑はとてもあり得ないと交通捜査の専門家は話します。

「両方くっつけたとして(違反点数は)14点であれば行政処分としては90日の停止程度。いきなり8か月の懲役というのは日本では考えられない」(元千葉県警・熊谷宗徳氏)

イギリスでは現在の形となる危険運転罪を1991年に導入して以降、交通事故の死者数が半分以上も減ったといいます。法律の導入を政府に提言した専門家は、その意義を強調します。

「客観的にひどい運転をしたら、運転手の認識に関係なく“危険運転”と判断されるようになりました。事故を起こさなくても危険な運転をしただけで、逮捕され、長期間刑務所に収監される恐れが出てきたのです」 (オックスフォード大学元総長ピーター・ノース氏)

あの東名高速の事故から1年、危険なあおり運転をどうすればなくしていけるのでしょうか。奇跡的に助かった萩山嘉久さんの長女は、手紙にこう思いを綴っています。

「いま事故に対して思うことはなぜこのようなことがおこってしまったのかということです。 どこかで一歩踏みとどまる心の余裕があれば起こらなかったことだと思うのです。

今後、このくだらない事故が少しでも世の中をよりよく変えてくれるなら無駄ではないと思えます。だからそのような人が減っていってほしいです。」


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