「アベ・スガを反面教師に・・・」岸田内閣発足から100日で見えてきたこと
10日 13時30分
■「行かなくて良かった・・・」豪州訪問断念の裏に総理の安堵

オーストラリアへの外遊が2日後にせまった1月4日。岸田総理は官邸で秘書官らを囲み、行くべきかどうか悩んでいた。国内ではオミクロン株が急速に拡大している。去年の暮れは地元・広島への帰省は自粛したのに、外遊にいくことに国民の理解が得られるのだろうか。

一方で、豪・モリソン首相からはどうしても来て欲しいと熱烈なラブコールがあった。総理は「外遊はアメリカが最優先」と決めていたが、米・バイデン大統領との会談はいっこうにメドがたたない。今回検討していた豪州訪問は、自衛隊と豪州軍が互いの国で共同訓練などを実施する際の手続きなどを定める「円滑化協定」の署名という大きな意義があった。外交で成果を出したい総理にとって、豪州外遊で「実」をとるべきかどうか・・・。

「やっぱり行くのはやめよう!リスクが大きすぎる」

秘書官らと考え込むことおよそ10分、総理自らが下した結論だった。
翌日5日、都内ホテルでの講演を終え、車に乗り込んだ総理は秘書官から国内の感染状況の報告を受けた。沖縄の感染者数は623人、前日の4倍近くにまで跳ね上がり、東京も390人と前日の倍以上に膨れあがっていた。これを聞いた総理は車の中でこう呟いた。

「オーストラリアに行かなくて本当によかったな・・・」

■ボトムアップに力点、変わりゆく「霞が関」と「党本部」との関係

どの政権も世間の反応を気にするのは当然のこと。国政選挙が近いとなるとなおさらだ。しかし、世論あるいは野党の反応を見て、即座に政策を変更する「変わり身の早さ」は岸田政権の大きな特徴と言える。

1月11日、総理は在職100日を迎える。私はこの内閣をわずか100日間みてきただけだが、直近の菅内閣、あるいは安倍内閣と色合いが随分違うことを感じている。むしろ、両政権を反面教師にしているのでは?と思うこともしばしばだ。
岸田総理は、安倍、菅政権時代に行きすぎた官邸主導を是正すべく、この100日間はトップダウンよりもボトムアップに力点を置いてきたように思う。これによって官邸と「霞が関(=省庁)との関係」、「党本部との関係」が随分変容してきた。

■総理に全くこだわりがなかった・・・5万円分クーポン“あっさり撤回”の裏側

世論の反応をみてすぐに政策転換した典型例が先の臨時国会で焦点のひとつだった「18歳以下への10万円相当の給付」だ。5万円分をクーポンにするという施策は、時間がかかる上に事務経費が970億円もかかるなど自治体などから不評を買った。
岸田総理が初めて挑む臨時国会では、野党にとってこれが格好の攻撃材料となるはずだったが、総理はその機先を制するかのように、いとも簡単に「10万円現金一括給付も選択肢」に方針転換した。
このときの状況を、政府関係者のひとりは、

「総理はクーポンに全くこだわっていなかった。クーポンは財務省が言っているだけで、総理自身に思い入れがないから簡単に撤回できた」

と話した。「批判を受けそうなら、一度決めた方針でも撤回する」という、この10万円給付を巡る方針転換は党内でも評判はまずまず良かったかと思う。
しかし、こうした方針転換は幾度となく繰り返された。

■「対応を間違えると大変なことになるぞ・・・」繰り返される朝令暮改

「10万円相当の給付」をめぐる方針転換から遡ることおよそ2週間。
昨年11月末、水際対策で国土交通省が行った“独断”は、官邸と霞が関の関係の「変化」がわかる象徴的な出来事だった。日本に到着する国際線の新規予約を一律で停止し、“海外の日本人が帰国できなくなる”と混乱が生じた。

「そんな話聞いてない、なんで報告がないんだ?」

岸田総理も官邸幹部らも国交省からの報告は受けておらず、急いで総理は方針撤回を指示した。その3日後、斉藤国交大臣は役所の独断だったこと、官邸へは事後報告だったことを認め謝罪したが、そのわずか1か月後、今度は文科省でも同じことが起こった。
オミクロン株の濃厚接触者は会場での受験は認めず追試などで対応すると文科省はいったん決めた。ところが受験生の中で予想以上の反発が起こった。またもや総理は文科省からこの方針を事前に聞かされてなかった。

「これは対応を間違えると大変なことになるぞ」

岸田総理は周囲にこう漏らし、別室受験を可能にするなど末松文科大臣に指示することになった。

■「役所に力が戻ってきた感じがする」省庁幹部の実感

一度決めた方針の撤回は、世論に配慮した“柔軟な対応”とも取れるが、政府内の調整機能が十分果たされていない証拠でもある。国交省も文科省も官邸に事前に伝えておらず、独断で行っていたようだ。官邸幹部の一人は、立て続けに起こった今回の事例に対し、「岸田内閣になって省庁側からの提案で物事を進めていく雰囲気になった。もう少し省庁との連携や目配せが必要だった」と反省を口にする。
一方で、ある省庁の幹部は、「安倍、菅時代の官邸一強と比べれば今は相対的に官邸の力が落ちている。我々からすれば役所に力が戻ってきたという感じだ」と話した。

■「状況の変化があれば躊躇なく対応する」開き直る総理に国民の支持は・・・

今回の事例を契機に岸田総理は至る所でこういう台詞を頻繁に使うようになった。

「一度決まった政府の方針であったとしても、状況の変化があれば、前例にとらわれず躊躇することなく、柔軟に対応する。これが私の基本的な方針だ」

繰り返される朝令暮改も「国民のために何が最善か考えた結果」だと胸を張る。開き直りともとれるが、こういえばなんとなく耳障りがいいのか、今のところ総理の方針はある程度評価されている。JNNが1月8日、9日に行った最新の世論調査でも岸田内閣の支持率は66.7%と政権発足後3か月連続で上昇している。
ただ度重なる方針転換によって振り回されるのは自治体であり、私たちであることは忘れてはならない。

■「政高党高があるべき姿」党に“気を遣わなければいけない”事情とは

霞が関(省庁)だけではなく、党との関係も岸田内閣になって変わってきた。安倍、菅政権では、意志決定において官邸主導の傾向が強く、党の力が相対的に低い「政高党低」だといわれた。

「政府と党は車の両輪だ。『政高党高』があるべき姿だ」

自身が出馬した昨年9月の総裁選を通じて、岸田総理は「政府と党は両方とも活力を持たなければならない。どちらが上の方がよいという話ではない」と主張してきた。総理に就任してから、弱体化した党の力を是正し、政策の「ボトムアップ型」を試みているように思う。人事でも副総裁に重鎮・麻生太郎氏を起用したことや、総理が就任後も頻繁に党本部に足を運ぶ姿からも感じ取れる。安倍・菅時代ではあまり見られなかった光景であり、総理が麻生副総裁や茂木幹事長ら党幹部との意思疎通を重要視していることがわかる。

一方で、総理には彼らに気を遣わなければいけない事情もある。
総理が所属する岸田派(宏池会)は43人で党内第5派閥。つまり総理は決して党内基盤が盤石ではない。党内最大派閥・安倍派(94人)を率いる安倍元総理、第2派閥・麻生派(53人)を率いる麻生副総裁らの顔色を見ながら、政権運営をせざるを得ない。今後支持率が低下すればいつでも“岸田下ろし”が起き得る環境にある。岸田総理はできるだけ党内に敵を作らず、少しでも多くの“味方”を作っておきたいという事情がある。
そんな中、憶測を呼びそうな会合があった。

■くすぶる“大宏池会”構想・・・第5派閥の悲哀

1月5日夜、東京・帝国ホテルにある鉄板焼が有名なレストラン。岸田総理は、麻生副総裁、遠藤選対委員長と会食した。麻生氏が率いる麻生派(志公会)と、遠藤氏が所属する谷垣グループ(有隣会)はもともと、総理が率いる岸田派(宏池会)の流れをくむ。これらの勢力が再結集するのではないかという“大宏池会”構想がくすぶり続けている。
遠藤氏が麻生氏にこの夕食会を呼びかけた時、麻生氏は

「この3人が飯食えば“大宏池会”って言われるんじゃないか」

と応じ、「この3派が集まれば安倍派を越えて最大派閥になる」と盛り上がったという。この会食でこの話が再度持ち上がったかどうかはわからない。しかし、総理は2年前の岸田派のパーティーで「宏池会の大きな塊を実現するために私自身汗をかいていきたい」と発言し物議を醸したことがあった。このときのことをこう振り返っている。

「現実の政治において自分1人ではできない。より多くの賛同してくれる政治の塊が必要である。そういった1つの例として宏池会のつながりということをあげた」

現在は麻生氏も遠藤氏も派閥の合流には消極的で、この構想は下火だ。
ただ岸田内閣の最初の人事をみると、鈴木財務大臣(麻生派)、中谷総理補佐官(谷垣G)、麻生副総理(麻生派)、遠藤選対委員長(谷垣G)と重要閣僚や党幹部に宏池会系の議員を据え、「これは大宏池会人事ではないか」とささやかれた。総理は派閥の合流にこだわっていないのかもしれないが、第5派閥の領袖として、同じ考えを共有する大きな塊が必要との認識は変わっていないはずだ。

■“ハネムーン期間”がおわり・・・見据える長期政権の可能性は?

1月11日で岸田政権が発足して100日を迎え、いわゆる“ハネムーン期間”が終わる。最初の100日間は有権者もメディアも批判を抑える傾向があるからこう呼ばれる。これからはいよいよ真価が問われることになる。
去年12月、岸田総理にとって初めての臨時国会はわずか16日間だった。1月17日からはじまる150日間の通常国会ではこれまで以上に激しい与野党の本格論戦が予想される。そしてそれが終われば参議院選挙が待ち構える。

「安定政権があってこそ、難しい課題、重要な課題に結果を残すことができる。なんとしても参院選挙は勝たなければならない」

年が明け、岸田総理からはこの夏の参院選を意識した発言が目立つようになってきた。しかし今回の参院選の勝利は容易ではない。
政権にとって最大の不安定要素はオミクロン株の急速な拡大だ。9日からは岸田内閣で初めてとなる「まん延防止等重点措置」が実施され、これからは本格的にコロナの“第6波”と対峙することになる。対策次第で支持率は一気に下がる可能性もはらんでいる。

参議院選挙はこの政権にコロナ対策や経済対策を託していいのかどうか、岸田総理としての“実績”が評価されることになる。この選挙に勝利し、長期政権も視野にいれるのか、まだその見通しは明るくない。

TBSテレビ報道局政治部 官邸キャップ
室井 祐作
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