【解説】FRB「テーパリング加速」で日本が利上げに踏み切るのはいつ?
8日 9時00分
アメリカの中央銀行にあたるFRBが米国債などの資産を購入する量的緩和の縮小=テーパリングの加速を決めるなど欧米諸国が金融政策の正常化へ舵を切りました。次の焦点である利上げが私たちの生活にどのような影響を与えるのか。日本が利上げをするタイミングはどんな状況なのか、専門家に聞きました。(「不動産の話で困ったときにみるやつ」より抜粋・編集)

■世界の中央銀行の動き

駒田健吾キャスター:
FRBは、2021年12月15日までに開いた会合で、「量的緩和策を2022年3月に前倒しして終了」すると発表し、22年に3回利上げするとの見通しを示しました。

またヨーロッパの中央銀行ECBも、「新型コロナウイルス対策として導入した緊急の資産購入プログラムを2022年3月に終了する」と発表しました。

ちょっと加速したという感がありますけれども、「欧米が正常化へ舵を切っている」ということですが、一方で日銀は「緩和を継続」しました。末廣さん、まず欧米の動きから聞いていきたいんですけど利上げのペースは予想通りですか?

大和証券シニアエコノミスト末廣徹さん:
金融市場の予想よりはかなり早かったと思います。ただ、「信じてない」ってのが実態ですね。

駒田キャスター:
どういうことでしょうか?

大和証券シニアエコノミスト末廣さん:
これ前回もそうなんですが2022年に3回と注目されるんですけど、FRBは22年に3回、23年に3回、24年に2回と言っていて、「トータルで2%ぐらいまで利上げする」という話をして見通しとして出してるわけです。ただ、今の10年金利っていうのが2021年12月22日時点では1.48%とかなんです。

つまり、短期の金利よりも長期の金利の方が低いっていうのは、なかなかあり得ないことで、要するに2、3年待って金利が2%になるんだったら、10年を1.5%とかで貸す人っていないと思うんですけど。
どうしてそういう金利がマーケットについてしまってるかっていうと、「2、3年利上げしたとしてもその後下げる」とか、場合によってはそうは言ってるけど「途中で頓挫するのではないか」っていう見通しが、より長い10年とかそういった金利に反映されてるということなので、そういう意味では「住宅に関係する長期の金利というのはむしろ下がってる」っていう状況なんです。

2021年3月が一番高くて1.7%台まであったんですけど、これだけ「利上げ、インフレで盛り上がってるけど10年金利はむしろ1.4%まで下がった」。この事実の方がおそらく大事で、要するに今、政治的にもインフレに対応しなきゃいけない。アメリカも2022年に中間選挙があって、バイデン政権の支持率が非常に下がって厳しいと。(FRBは)独立はしている組織でその中央銀行としては、人々が困ったり国民が困ったりでインフレに対応しなきゃいけない。だとするとどんどん利上げしていきますよっていう「今のインフレを鎮めるっていうポーズをとることが大事だ」いうことなんですね。それをマーケットは見透かしてるっていう状況です。

駒田キャスター:
量的緩和策の終了は早めたっていうのはありますけどその後の利上げに関しては、マーケットは非常に懐疑的に見ている。その3回の利上げっていうのは、やらない可能性、3回が2回になる可能性もある。(FRB)パウエル議長は確約をしてないんでしたっけ?

大和証券シニアエコノミスト末廣さん:
これはあくまでも彼らの「見通しっていうことで確約ではない」です。

駒田キャスター:
そこはちょっと注意深く見ていかなきゃいけないってことですよね。

大和証券シニアエコノミスト末廣さん:
そうですね。結局は逆に利上げをしていってインフレを鎮めたとしても、それで「株価が下がってしまったり」とか「経済が混乱する」と、それはそれでバイデン政権にダメージを与えてしまうのでそこは様子を見ながらっていうことだと思うので実態としては厳しいのかなと私は思います。

駒田キャスター:
しかし日銀の皆さんが臍を噛むぐらいうらやましいというか、アメリカのインフレ率ってちょっと予想よりも高いですよね?

大和証券シニアエコノミスト末廣さん:
そうですね、6%かっていう。一時的な部分がかなり多いと思うんですけれどもかなり高いですね。一方で日本はまだ0%近辺でうろちょろしてるっていうことなので、そういう気持ちはあるかもしれないですね。

■日本が利上げする状況になるには?

駒田キャスター:
日本なんですけれども、どういう状況だと、利上げに踏み切っていくのか。当然インフレターゲットとかちゃんと達成したりとかっていうことはあるとは思うんですけれども、利上げするにはどんな状況になることが必要ですか?

大和証券シニアエコノミスト末廣さん:
アメリカもそうなんですけど6%インフレが起きていて、賃金も日本と比べると相当上がってるのですがアメリカも賃金の上昇は4%半ばぐらいですね。これはサスティナブルじゃない、安定的じゃないですね。要するに、「物の価格が6%上がっている」のに「賃金が4%しか上がってない」とどんどん貧しくなるわけですよね。これがやっぱり基本だと思っていて、物の価格が継続的に上がるには賃金が上がらなきゃいけない。

【1人当たり賃金改定率(加重平均値)】賃金引上げ等の実態に関する調査より
1981年:7.8%
1990年:6%
2000年:1.5%
2010年:1.3%
2020年:1.7%

この日本の賃金の上昇率はベア(ベースアップ)じゃなくて、定期昇給って言って年功序列で上がっていく分を含めてなので、「ベアだけの分に限定すると0.5%もない」っていうことです。0.5%ぐらいしか毎年上がっていかないのであれば物価もそれぐらいになるのは自然なことなので、岸田政権も賃上げ税制ってやってますけれども基本はやっぱり「賃金が上がっていかないと物価はついてこない」っていうことだと思いますね。

駒田キャスター:
末廣さんは賃金が大事だっておっしゃってましたけど、実質賃金ってのも全然変わってないわけですよね。

大和証券シニアエコノミスト末廣さん:
そうですね。日本の場合は物価も上がってないし賃金も上がってなくてそこで「安定してる」っていう状況ですね。

駒田キャスター:
逆に安定してるっていう表現も使えるわけですか?

大和証券シニアエコノミスト末廣さん:
安定はしてますね。でも他の国がやっぱり少しインフレになっているので日本だけ出遅れてる形になっていて、「日本だけ賃金が安い国」っていう動きにはなってしまう。

駒田キャスター:
OECD(経済協力開発機構)のデータとか見てても、日本はいろんな国に追い抜かれてってもう本当にもう最下層に沈んでいる現状があるじゃないですか。韓国にも抜かれ、ちょっとこれは安定というよりも将来心配なんですけどどうですか?

大和証券シニアエコノミスト末廣さん:
それはここを変えていかなきゃいけないって安倍政権でも、官製春闘(政府が直接企業側に賃上げを要請する)を働きかけたり、岸田政権でも賃上げ税制ってやってますけれども。こういう状況がもうずっと定着してしまっているのでなかなか変えられないっていうのが現状だと思いますね。

■“ゾンビ企業”が増えると一時的に経済成長しているように見える

駒田キャスター:
前日銀総裁の白川方明さんが経済誌のインタビューで、「もうインフレターゲット政策を諦めるべきでは」みたいな発言があって、結構これは驚きを持って捉えた人も多いと思うんですけども、あの発言についてはいかがですか?

大和証券シニアエコノミスト末廣さん:
日本だけこのインフレターゲットが達成できないから恨み節言ってるんじゃないかっていう見方もできなくはないと思うんですけど。成長率とかっていう観点から言うと一時的にアメリカもインフレ高くなってますけれども、このコロナ前は結構アメリカもインフレすごく弱くて緩和してもなかなかインフレにならないっていう状況が起きていて、これは「緩和し過ぎて問題が起きてるんじゃないか」っていう話があるんですね。それを白川前日銀総裁は言っていて、要するに緩和しすぎると、企業からすると簡単にお金借りれるんですよね。借り手が優位になる。そうすると、大した収益性もない企業もお金を借りられてしまって延命されると。
彼らを“ゾンビ企業”というんですけど。あたかもゾンビ企業が1個2個増えていくとボリュームが増えるので一時的に経済成長しているように見えるんですけど、皆さん薄利でやってますので利上げしようとして、借りるコストを上げるとすぐ倒れる。それがなかなか利上げもできない。薄利ですので賃金もそんなに払えなくてインフレにならないっていう、「そういうスパイラルに緩和しすぎたせいでなってるんじゃないか」っていう議論があってそこをまず変えないといけないと白川さんは言ってます。ただこれはアメリカから変わらないと難しいですねとも言ってますね。

駒田キャスター:
なるほど。ある意味厳しい言い方ですけど、資本主義の中ではある程度新陳代謝、淘汰されていく企業もないと健全な経済は持続できないっていう。

大和証券シニアエコノミスト末廣さん:
そうですね、北風と太陽で、「太陽政策」でずっと一生懸命安いコストで金利低くしてってやってたんですけれども、そろそろやっぱり「北風政策」も必要なんじゃないか、厳しい政策も必要なんじゃないかって声は出てるんですけれども答えがなかなか出ないので。
北風に変わるのって政治的にやっぱり軋轢も多いですので、これはしばらく私は変わらないんじゃないかなと思いますね。

■「痛みを伴った利上げに動くっていう可能性はある」

駒田キャスター:
ここまでの話を聞いて中山さんはいかがですか?

LIFULL HOME’S 総研 副所長 中山登志朗さん:
日本の実質賃金がね、ここ30年ぐらいはほぼ横ばいで上がってきてないという状況があるので、そうなってくると、住宅の価格で今度上がってるじゃないですか。それは非常に憂慮すべき話となるわけですよね、結局賃金も上がってないけど物価も上がってないから生活できるバッファといいますかね。それは安定的に確保されてるじゃないかと。

だから経済成長を前提にするとそういう話になるんで、「経済成長しなければそのまま平々凡々と暮らしていけるよね」という発想になる方も中にはいるわけですよね。そうなってくると住宅の価格だけ上がってくるっていうのは、さらに買いにくくなるっていうことになってしまって、その中で住宅ローン減税の縮小ということを実行するのは国の政策的にいかがなものかっていうのはちょっと疑問ですね。

駒田キャスター:
日本の金利が上がるその現実像っていうのは結局どういうところに着地するんでしょうね。

大和証券シニアエコノミスト末廣さん:
まず一番いいのは「賃金が上がってしっかり物価がついてくる」。その結果それに合わせて金利を日銀が利上げできるってのが一番いいんですよね。ただ先ほど言ったように「緩和をしすぎてるせいで、むしろ物価が上がりにくい構造を作ってしまってるんじゃないか」ってこういう動きがグローバルに出てくると、私は10年は出てこないと思いますけど、出てくると「痛みを伴った利上げに動くっていう可能性はある」かなと思います。これはおそらく、そんなに近くにはないと思うんすけど「不動産市場には結構ダメージが大きい」パターンだと思います。

(「不動産の話で困ったときに見るやつ」より抜粋・編集)
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