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トランプ政権を揺るがすロシアスパイ、その手口を暴く(第2回)

トランプ政権を揺るがすロシアスパイ、その手口を暴く(第2回)

 ロシア大使館員と親しくなった内閣情報調査室の水谷俊夫(仮名)は、会食のたびにプレゼントを受け取るようになる。ハンカチセットにはじまり、高速道路のプリペイドカード、デパートの商品券・・・。徐々に警戒心を解きほぐされた水谷は、ついに現金を受け取ってしまう。

 ロシア大使館のグリベンコ一等書記官が会食のたびに渡してくる金額は10万円になった。

 「金額が高すぎるとは思いました。これに見合うものをグリベンコにフィードバックしなければならないのかなと思いました。ただ相手が何も求めてこない。何も目的もないのにお金をつかませるという行為が不思議でした」

 水谷はこう語る。

 一緒に行く店は居酒屋ばかり。席も個室ではなく、通常のテーブル席だ。食事中、雑談に終始している。水谷は安心感を抱いていたのだ。ただ、心の奥底で「何かを返さなければ」という気持ちは沸々とわき起こっていた。それがロシアのスパイの狙いだったのだろう。

 会食は二ヶ月に一度、そのたびに渡される10万円は、月にすれば5万円の小遣いになる。水谷は「定期的に渡されているうちに本能的にあてにするようになった」という。金は中毒性のあるものに変質した。

 筆者は「金を返そうとは思わなかったのか」と水谷に尋ねた。

 「そりゃあ思いましたよ。続けてもらっていれば、50万円、100万円になってしまいます。いざ、あなたの話は有益ではないと言われたときには、まとめて突き返してやろうと思っていました。でも、しばらく様子を見てみようと・・・」

 水谷はこう答えた。

 もらった金は競馬や酒、海外旅行に使った。グリベンコは何も求めてこない。互いの家族や日本でのイベントの話が多かった。

 当時、日本に「ボリショイサーカス」がやってきた。水谷はグリベンコにたずねた。

 「日本でボリショイ大サーカスが開かれますが、ボリショイってどういう意味ですか?」

 「大きいという意味ですよ」

 「じゃあ、ボリショイ大サーカスというと、大大サーカスという意味ですね」

 二人で笑った。会話はこんな他愛のないものだった。政治も、外交も話題に上らないのだ。

 その後、水谷は内閣情報調査室から「内閣衛星情報センター」に人事異動した。衛星情報センターとは日本の偵察衛星の運用を担当する部門で、高度な秘匿性を求められる。中国やロシア、北朝鮮の軍事基地の動向を監視するのが任務だ。日本初の偵察衛星を軌道に乗せる重要な仕事だったが、中国の専門家の水谷としては不本意な異動だった。

 研修が苦痛だった。パソコンが苦手なのに、衛星画像の解析を叩き込まれる。防衛、外務、警察の各省庁から集まった研修生の中でも年配だったこともあり「学生長」になった。

 水谷の悩みを察するや、ロシアスパイが動いた。一人目のロシア大使館員・リモノフが「参事官」に出世して東京に再赴任したのだ。偵察衛星の運用が軌道に乗った、まさに狙い澄ましたようなタイミングだった。

 待ち合わせの大崎でレストランに入ると、リモノフはこういった。

 「衛星情報センターに異動したそうですね」

 「ええ」

 衛星についてここでは深く聞いてこなかった。しかし以前とは違う、かたい雰囲気がある。そして別れ際にリモノフはこう念押しした。

 「これまで通りの関係を続けましょう」

 二ヶ月に一度会食し、現金10万円を渡すことの確認だった。

 リモノフが予約する店が高級になった。高級和食、フレンチ、中華・・・。一人1万円は超える店ばかりだ。出世すると店も変わるものだな、と水谷は思った。

 ある日のことだ。リモノフが身を乗り出してこういった。

「衛星情報センターのあなたの隣に座っている人が分かるような座席表はありませんか?どんな人が働いているのかわかるようなものが欲しいのです」

 初めての要求だった。

 水谷は察した。私では駄目なんだな。だから次の接触相手を探すために、衛星情報センターのスタッフが知りたいに違いない。

 「そんなものはありません」

 水谷がこう答えると、リモノフは眉をひそめ、機嫌を悪くしたように見えた。次はもっと露骨な要求があった。

 「日本の衛星のターゲットが知りたい。どこを撮像しているのですか?」

 水谷はこの要求もなんとかごまかした。すると金の渡し方に変化が出た。これまで10万円だったのが、9万円に減ったのだ。これについて水谷はこう分析する。

 「揺さぶりだと思いました。お前は有益な話をしないから、10万円は渡せない。ボーナスの査定をされているような気分になりました」

 リモノフは追い打ちをかけた。大森のしゃぶしゃぶ店での出来事だ。

 「もうこの関係はやめにしますか?」リモノフは言った。いらだちがピークに達しているようだった。

 「・・・・もう、会うのは終わりにしましょうか?」繰り返すリモノフに、水谷は沈黙を貫いた。

 「あのとき、『もういいです。やめます』って言えば良かったのです。そのときは、結論をうやむやにしたくて、私は何も答えなかった。それが失敗でした」(水谷)

 水谷はリモノフの機嫌を取りたいと思うようになった。衛星センターのデスクの端末に送られてくる海外メディアの翻訳記事に目をつけた。この記事に、水谷自身の解説を加えて、レポート形式に整え、リモノフに渡すようになった。職場から文書を持ち出すようになったことから、水谷のたがが外れはじめた。

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