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トランプ政権を揺るがすロシアスパイ、その手口を暴く(第1回)

トランプ政権を揺るがすロシアスパイ、その手口を暴く(第1回)

 トランプ政権がロシアによる大統領選介入疑惑に揺れている。いわゆる「ロシアゲート」だ。ロシアのスパイ機関がクリントン陣営をハッキングして、メールを流出させ、選挙戦を妨害していたという疑惑。トランプ政権はロシアによって誕生したのではないかとの疑いが出ている。

 それを裏付けるかのように、トランプ氏の選対本部長、外交顧問、長男がロシアのスパイ機関関係者と密会していたことが判明。疑惑は泥沼の様相だ。

 ロシアのスパイたちはどのようにして、国家の中枢に迫るのか。この連載で暴いていきたい。ロシアスパイの標的はアメリカだけではない。日本の国家権力の中枢。総理官邸の周辺にまで手を伸ばしていたのだ。筆者は、ロシアによるスパイ工作の犠牲になったある人物を取材することができた。取材に応じることに躊躇する彼の背中を押したのは、トランプ政権を窮地に追い込むロシアゲートだった。

 「規模は違うけど、トランプ政権の疑惑は、私と共通する問題だと思いました。私が経験を語ることが世間の役に立つのなら、カメラの前でお話しします」

 彼はこう前置きして語り始めた。内閣情報調査室国際部に勤務していた水谷俊夫(仮名)は、川崎駅前の商業ビルに入っている焼き肉店に入ろうとしたとき、十数人の男に取り囲まれた。先頭に立つ男に、かつての同僚がいた。

 「ああ、Sさん・・・」

 水谷がつぶやいたとき、目の前に3冊の警察手帳が飛び込んできた。

 「警視庁公安部です。君が待ち合わせた男は来ないよ。話を聞きたいから一緒に来なさい」

 先頭の3人が警察手帳を掲げていた。顔見知りのSは、以前、内閣情報調査室に出向してきていた元公安警察官だった。このときの心境を水谷はこう語る。

 「頭が真っ白になって、どういうことになっちゃったんだろうな、信じられないな、そういう感じで、しばらくそれからの記憶がないんです」

 気づいたら、公安部の捜査車両に乗っていた。年配の捜査員がこういった。

 「公安部外事一課をなめるんじゃない。我々は君を1年間ずっと見ていたんだ。君のことはすべて知っている。全部喋ってもらうからな」

 水谷は自分が8年間に渡ってつきあってきた4人のロシア大使館員が、GRUロシア軍参謀本部情報総局のスパイであることを知らされた。出会いは虎の門で開かれたあるセミナーだった。当時の水谷の所属は内閣情報調査室国際部中国班。中国情報収集が業務だったため、中国関連のセミナーには顔を出して人脈開拓をしていた。

 ここで水谷の仕事を説明しておく。彼が所属していた「内閣情報調査室」とは、首相官邸直属の情報機関で、内閣の政策立案のための国内外の情報収集を行うのが任務である。水谷が所属する国際部は、中国、朝鮮、ロシアなどと地域別に担当が分かれ、内閣総理大臣に報告するための情報を集めている。「日本版CIA」などと持ち上げる声もあるほどの組織である。つまり水谷自身、インテリジェンスに関わる仕事だったのだ。その中国関連のセミナーが終わって水谷が立ち上がったとき、顔見知りのK通信社の外信部記者が声をかけてきた。中国やロシアに精通するベテラン記者だった。

 「コーヒーでも飲みに行きましょう。こちら、ロシア大使館のリモノフさんです」

 髪の毛を七三分けにした栗毛の男。エメラルドグリーンの瞳が印象的だった。近くのコーヒーショップに3人で行くと、仲介した記者が言った。

 「水谷さんも情報収集しているのであれば、リモノフさんと知り合いになっておくのがいいですよ」

 当時、内閣情報調査室長は「外部の人間と飯を食え」と、人脈開拓を強く奨励していた。それにロシアと中国の関係は深い。情報源になれば助かる、と思った。

 「こちらも歓迎ですよ」

 水谷は答えた。リモノフの名刺には「在日ロシア大使館一等書記官」と書いてあった。日本語もうまく、立ち振る舞いも洗練されている。さすがに外交官だな。水谷はこう思った。これが8年間続く、壮大な罠の入り口だった。その後、リモノフから電話がかかってきた。携帯の画面には「公衆電話」と表示されていた。職場の電話でもなく、自分の携帯でもない。奇妙だった。リモノフは都内のレストランを指定し、「お店の前に立って待っていてください」と言った。予約しているのなら、店の中で待てばいいのに・・・。不思議に思いながら従った。水谷が待っていると、リモノフは遅れてやってきて、一緒に店に入った。

 「遠くからすっと近づいてくる。今思えば、どこかから、私を誰かが尾行していないか、監視していないか、確認したうえで近寄ってきていたのだと思います。会話は雑談ばかりです。家族の話とか、趣味は何だとか・・・」

 水谷が聞きたい仕事の話にはならない。時間の無駄かなと思ったこともあった。一度、話題の種にと、水谷は中国共産党大会の人事予想を作成して、リモノフに渡した。リモノフは目を丸くしてこういった。

 「これは面白い。よくかけていますね。さすがです」

 水谷は少し嬉しくなった。やがてリモノフの任期が来て、帰国することが決まった。「後任を紹介したい」といって虎ノ門のレストランに連れてきたのが、グリベンコ一等書記官だった。肌が浅黒く、ひげの濃い大柄の男だったが、しゃべり方はソフトで紳士的だった。

 「水谷さんはすごく能力の高い人なんです。中国の人事をすべて言い当ててしまうのですから」

 リモノフはグリベンコに言った。その後、同じようにグリベンコと食事をするようになった。食事が終わるとグリベンコは、

「次はここで」

 店のパンフレットを渡しながら、次に会う日時を指定した。やがてグリベンコが手土産を持ってくるようになった。最初はハンカチセットをもらった。バーバリーの3枚セットのものだった。その後、小さなカードのようなものを差し出しながらこういった。

 「これ、余ってるのでどうぞ」

 高速道路のハイウエイカードだった。1万円分のものだ。水谷氏は車には乗らない。もらってもしょうがないと思いながらも、相手が気分を害しても悪いと思い、「頂いておきます」と言って受け取った。水谷は筆者にこう語る。

 「当時、私も中国情報を聞くとき、接触した相手に手土産を持って行くことがよくありました。そういう意味では、当然の成り行きなのかなと思ったのです」

 次に会ったとき、グリベンコからデパートの紙袋をもらった。家に帰って開けてみると、紅茶のティーバッグのセットだった。つまらない物をくれるものだな。こう思いながら箱を開け、中身を全部出した。箱の底に何かがあった。デパートの商品券。千円の10枚綴り。1万円分だった。水谷はこれまでもらったものを、すべて友人にあげていた。商品券は親戚にあげてしまった。土産物より、中国の情報を聞き出したかった。土産の商品券はさらに形を変えた。その日、グリベンコが指定したのは、天王洲アイルの和食店だった。食事が終わると、グリベンコがいつものように紙包みを渡してきた。

 「プレゼントです」

 いつも通り受け取って、帰宅してから箱を開けた。

 「お土産が何か記憶はないのです。箱の下に入っていたものに驚いたからです。封筒が入っていて、中身は現金・・・。5万円が入っていたのですから」(水谷氏)

 やがてその金額は10万円につり上がっていった。(2回へ続く)

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