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TBS NEWS

2019年11月4日

今週の注目「APEC首脳会議が突然中止に」

[ TBS報道局編集主幹 播摩卓士 ]

 南米チリのピニャラ大統領は、30日、今月ホスト国としてチリで開催予定だったAPEC(アジア太平洋経済協力会議)首脳会議の開催を断念すると発表しました。若者らによる反政府デモの拡大を受けて、治安に責任が持てないというのがその理由で、開催まで2週間という直前のギブアップで、代替地を見つけるわけにもいかず、今年のAPEC首脳会議は突然中止ということになってしまいました。

 このことで当然視されていた米中貿易交渉の「第一段階の合意」がどうなるのか不安視されるようになり、束の間の幸せを満喫していた株式市場にもさざ波がたっています。そもそも米中交渉で合意に達している部分は限られているのが実情で、APECにトランプ大統領も習近平国家主席も来るのだから、首脳会談はやりましょう、首脳会談やるなら部分的にでも合意しましょう、というシナリオに狂いが生じてしまったからです。わざわざ合意のためだけに2人が合うとなるとスケジュール調整だけでも大変ですし、そこまでして会ったのに、この程度の合意かと受け止められても困ります。舞台の変更が出演者の心理に影響を与えるというのはよくあることです。

 そもそも、チリの反政府デモは、先月初めの首都サンティアゴの地下鉄の値上げを受けて火がついたものですが、値上げ幅は30ペソ=約4.3円だったそうです。4円ちょっとの値上げでAPEC首脳会議も、米中首脳会談も吹っ飛んでしまったわけです。だった、と書いたのは、その後の激しいデモで値上げは撤回されたのです。それでもデモは収まらず、すでに20人もの死者を出すほどにまで拡大、民は怒っているのです。国民は地下鉄の5円の値上げに怒っているわけではなく、その背後にある、経済不振や格差拡大に怒っていると伝えられています。トランプ現象、ブレグジット現象だけでなく、自分たちは正当に扱われていないという怒りが政治にぶつけられる現象が、世界のあらゆるところで起きていることを改めて認識させられる出来事です。

 それにしても、是が非でも別の場所でAPEC首脳会議を開こうという話が全く起きないというのは、開かれたアジア太平洋地域の貿易投資体制を目指して発足したAPECの役割が、米中対立の中で、いかに低下しているかも物語っています。

(BS-TBS「Bizスクエア」 11月3日放送)
播摩卓士

播摩卓士(TBS報道局編集主幹)

1984年入社 報道局で経済全般、日米関係、国際政治などを取材。夕方のニュース番組やNEWS23編集長、経済部長、ワシントン支局長、NEWS23キャスターなどを経て、現在、BS-TBS「Bizスクエア(日曜午後9時)」キャスター。