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TBS NEWS

2019年4月19日

橋下流で野党は本当に強くなるのか ~いまの野党にたらないもの

[ TBS政治部記者 室井祐作 ]

 こんな自信に満ち溢れた人はなかなか今の政治家にはいない、というのが最初の印象だ。元大阪府知事で、大阪維新の会の創設者・橋下徹氏である。BS-TBS「報道1930」で共演した際、社内で初めて挨拶を交わした。私は、いろんな人に聞かれてうんざりされていることを承知で、「もう政界復帰はしないのですか」と聞いてみた。そうしたら彼は「僕は向いていないことがわかったのでもうやりません。外であれこれ言ってるほうが楽なんですよ」と、何の未練もない様子。

 「新刊が野党議員の間で話題になっていますよ」と伝えたら、とてもうれしそうだった。しかし、いまの野党の現状に相当な危惧を持っていたのも印象的だった。

 橋下氏は自身の新刊、そしてBS-TBS「報道1930」での放送の中で、「強い野党の作り方」を披瀝した。参考になることも多かったのだが、やはり実際に私が取材する現場は違う。橋下氏の主張で本当に野党が強くなるのか。私が野党記者としてすごした1年半、立憲民主党と国民民主党の結党から現在までを取材してきて、いまの野党に何が足りないのか、橋下氏の考えをベースに分析したい。

 橋下氏が主張する、どうすれば野党が強くなるかについては、以下4点に集約される。

(1)徹底的な政治マーケティングを行うこと
(2)組織としてまとめる力をつけること
(3)地方議員を増やすこと
(4)定数1人区での予備選の実施すること

(1)において橋下氏は、有権者をひきつける日本の新しい道、選択肢を徹底的に調べるマーケティングを行うべきだとしている。有権者の意向を探った上で、ポピュリストになりきるべきだと。そして毎日1万、2万とメディアに向けて発信を続け、政策をアピールし続ける、それでようやく「1」が伝わる程度だ、と強調している。

 「ぼくはポピュリストだと批判されたが、でも民主政治は有権者の支持を集めないと権力がとれない。政治家は有権者の支持をいかに集めるかということに集中しないといけない。いまの野党はそこが足りない。未来志向のワクワク感というか、次世代をめざして、キラキラ感というのは自民党にはない。野党は未来志向型。伝統とかいいところは守るんだけれども、やはりそこは大胆に未来を作っていくんだというそういう両者の違いというのを野党をみせないといけないとおもう」(BS-TBS「報道1930」1月18日)

 橋下氏は「日本は世界と比べ教育水準や民主主義の成熟度のレベルが高い」という前置きがあって、正しいポピュリズムこそ、正しい民主主義の根本だと主張する。

 むしろ私は、現在蔓延する政治への無関心、情報の氾濫、昨今とくに顕著な政府(権力)の恣意的な情報公開のやり方などをみるに、どこまで日本の民主主義が成熟していて、国民が正しい判断ができているのか、という点は議論が必要だと思っている。

 それはさておき、野党はポピュリストをめざすことはおろか、与党とは違う未来志向型の提案も出し切れていない。確かに野党(とくに国民民主党)は役人出身の議員が多いためか、対案作りには物凄く長けている。しかし作って満足しているだけだ。それをどのように世に出しアピールをするか、その視点が著しく欠けている。

 それは与野党対決法案の審議や、委員会などでの政府与党への追及の場でも同じことが言える。個々がまとまりのない質問をしたり、せっかく追及のターゲットが絞り込まれ、メディア共々盛り上がってきても、金曜日だから、定例日外だから、追及の場がないから、という理由で、地元に帰ってしまい気運を逃すことも少なくない。ここがチャンスだと思えば、間髪いれずに追及し続ける、アピールする、そういう視点が足りないと思う。これはいわゆる国会対策上の戦略ミスだといえる。

 次に、(2)「政策と理念の一致」は二の次で、まとめる組織力こそが重要で、橋下氏はその視点が欠けたことが、維新が自民党に対抗しえず失敗した理由だと結論付けている。

 「政策理念の一致なんて二の次。まずは権力。ぼくはメディアから批判されて政策理念の一致を目指しすぎた。そしたら集団は広がらない。野党も幅広げないと。自民党はばらばらのなかで決める力があるんです、最後意見をまとめる力。はじめから無限大にある政策課題を一致させるのは無理です。まとめる力を組織が持っていれば、中身はバラバラであろうがなんであろうがひとつにまとまるんだから」

 私が、自民党担当から野党担当に変わったときに野党に最も感じたことは、この「まとめる力」だった。政策と理念の一致にこだわり、とにかく野党の議論は長く、なかなか決まらない。

 最近だと、国民民主党と自由党との合併協議をみればよくわかる。協議開始から2か月以上経過してもなかなか決まらない。国民民主党・玉木雄一郎代表が「野党は10のうち9が一致していてもたった1の違いで分かれてしまう」と、いまの現状をわかりやすく表現している。

 民主党政権はまさにこのまとめる力が欠けて崩壊してしまった。

 国民民主党はこの失敗をもとに、自民党の最高意思決定機関である総務会を模した会議体を作ったが、まとめる力はまだまだ弱い。合流協議を例に取ると、執行部はこれ以上の離党者をださないために丁寧に、丁寧に議論を進めている。

 一方、立憲民主党は、政策はボトムアップ、意思決定はトップダウン。しかし政策と理念の一致は、枝野幸男代表が譲れない絶対条件だ。どちらの党も政権時代の失敗から学ぼうとしている。枝野氏は「野党が結集すれば理念や政策がみえにくくなり、何をする政党かわからない」というのが持論であるのに対し、橋下氏は、「理念政策は二の次でまずは野党が結集し権力をとらないと政策は実行できない」という主張。これは自由党・小沢一郎代表と考え方は一致している。

 そして(3)地方議員を増やして政党の足腰を強めること。

 「知事か首長をとらないといけない。地方議員は選挙のときの手足ですよ。だれが実際に選挙を動くのかといえば、選挙でみんなボランティアを集めても一生懸命できない。地方議員は給与保障されて暇なんだから、時間たっぷりあるんだから。選挙にフルに力を発揮できる。地方議員が選挙の鍵だからこれを増やさないと勝てない」

 最近だと、4月の北海道の知事選がいい例だ。ここは今回の統一自治体選挙で唯一の与野党対決の構図となった。野党としては絶対獲得しておきたかった選挙だった。元来、旧社会党時代の金城湯池であり、革新系の強い地盤だったにも関わらず、どこまで本気でこの選挙を勝とうとしていたのか、疑問が残った。

 まず、候補者選定に時間がかかりすぎたことで、当初から力が入っていなかった。候補者のアピールが浸透しなかったことやそれに勝る与党候補のタマの良さというのもあっただだろう。この選挙が夏の参議院選挙での野党共闘の試金石となるだけに、この結果は不安が残る。

 橋下氏がいうように、いざ国政選挙になれば地方議員が地ならしした票を国会議員が吸収していく。それだけ知事、首長、地方議員は政党の足腰となるほど重要だ。

 野党第1党・立憲民主党の枝野代表は「ボトムアップの政治のため地方自治体議員の仲間を増やす」と地方議員の重要性は認識しているものの、選挙において「中央があまり前面に出ない」作戦に徹したことが、裏目にでたのではないか。あの時こそ、野党第1党としてのリーダーシップが必要だった。

 そして最後(4)は参院選挙の1人区の選定に予備選を実施すること。

 「小沢さんのアプローチは野党をひとつにまとめないといけないから、いきなりまとめるという話ですよ、いきなり。ぼくはポピュリスト的な感覚からすれば、有権者は絶対ついてきません。だからといってかつての民進党のままで、有権者が支持をするかといったらそれも支持もしない。野党は新しいスタイルで有権者の支持を得ようと思えば、野党間でいま政策の違いがある。そしたらここで潰しあいをやったほうがいいんです。そしたらどの政策が支持されているのか、どういうスタイルが支持されているのか、それを見ながらどんどんその予備選の討論と投票を繰り返すことによって、有権者から支持を受けるようなそういう政党に変わってくる」

 この発想は、小沢一郎氏の比例代表では野党統一名簿を作成するという「オリーブの木構想」に対する橋下氏なりのアンチテーゼである。橋下氏は、先ほどまでに敵対していたのに、野党統一候補と決まった途端に、選挙協力ができるわけがないといい、候補者を、政策議論を可視化した上で、予備選挙(実質的には世論調査)で決めるべきだという。

 これに対して、枝野氏は、「地域の事情で、関係者、特に市民のみなさんを巻き込んだ関係者の間の様々な努力によって、候補者を一人に絞るべきである」と述べ、予備選挙を拒否している。

 実は、枝野氏の本音は、時間が経つにつれて、相手(※共産党を想定している)が一方的に候補者をおろしてくれるだろうという見立てなのだが、そんなことをしていては候補者がぎりぎりになるまで決まらないという、北海道知事選の二の舞になってしまう。

 しかも、今の野党の現状は、橋下氏が主張する予備選挙をおこなうまでもなく、そもそも野党の候補者が集まらないという、深刻で根本的な問題がある。いまの弱体化した野党から立候補しようと思う人材の発掘、それには候補者の家族の理解や協力はもとより、選挙資金が潤沢ではない野党の場合、個人の資金力が最大の課題になっている。その結果、いまの野党の候補者を見てみると。実績よりも、知名度のある著名人、アナウンサーなどのメディア出身者、落選しても仕事の担保のある弁護士などに偏りがちなことがよく分かる。勝てる候補を見つけるためにも、落選した際の担保など、立候補しやすい環境を作るほうが先決だ。

 橋下氏が主張することを全部達成すれば確かに今よりも野党は強くなるかもしれない。しかしこの視座に足りないことは、(1)~(4)どの分野でも共通していえることなのだが、野党第1党が本腰をいれてリーダーシップをとらないとどうしようもないということだ。

 いまの野党の最大の問題は、野党第1党と第2党の代表がまったくコミュニケーションがとれていないこと、枝野代表のリーダーシップとプレゼンスが国民見えないことだ。枝野氏は、さきの衆院総選挙で希望の党に合流せず、芯を通して自分がこの党をつくったという強烈な自負をそのまま引きずっている。ただし有権者はいつまでも覚えているわけではない。コンスタントに発信し続けなければいけなかった。国会開会中の発信が少ないため、党の顔としての存在感やスタンス、リーダーシップが伝わってこない。

 結果、政党支持率は右肩下がりの傾向が続き、国会開会中にもかかわらず政権の支持率を下げるようなことになっていない。野党への国民の期待はまだまだあがる兆候にない。

 長く永田町をみてきた野党のベテラン秘書に話を聞くと、今後、政権交代をするためには、かつての小沢一郎氏のように自民党を集団で割ってでてきて、非自民の連立政権を作るか、小池旋風のときのように、外部から強力なリーダーが現れて野党再編の気運を盛り上げていくことしかないのではないか、と嘆く。

 翻って、強力なリーダーということで、いま、小沢氏を筆頭に期待されているのが、橋下氏の政界復帰だ。冒頭、政界復帰の可能性について社内で聞いたことを紹介したが、改めて私は番組の中でも疑問をぶつけてみた。

 「かつて93年に小沢さんが自民党を飛び出したときのように、自民党内で不満を抱えて集団離党するような気骨のある政治家は今の自民党にはいない。おととしの小池旋風の際と同様、橋下氏のように実績、カリスマ性、知名度のある人が野党再編の旗を掲げて出てくれば大きな野党の動きがでてくるかもしれない。いま永田町であなたがこのまま政界引退したと思っている人はほとんどいない。虎視眈眈と流れをみているのではないか」

 すると、橋下氏は「それは東京の永田町の政治記者の発想だ」と一蹴。

 「室井さんとこうやって話をさせてもらいましたが、今日でもう二度と一生会いたくないと思っていると思う。僕は1人で好き勝手に。僕は政治家はむかないですね。もう死んだ分際で色々いってますけど。本当に腹たったらそんときはどうかわからないですよ。腹立つことあるじゃないですか。ぼくも大阪府知事になったときは、もういくらコメンテーターがいろんなこといったって何も変わらなかったです。そのときは若い世代みんなでうわっといかないと、うわっと。本当に怒って立ち上がって選挙で議席をとっていかないと。そういう力をださないと日本は変わらない。いまの代わり映えしないメンバーでやったって自民党と同じような感じじゃないですかもう」

 2008年の大阪府知事選挙前に、橋下氏は出馬について「2万パーセントない」と完全否定していたが、その後手のひらを返したかのように立候補したことはまだ記憶に新しい。大阪都構想が実現できなかった彼の未練、そして今回の大阪ダブル選挙での維新の勝利を考えると、まだ可能性が残っていると私は感じる。

 案の定、今回は「腹が立ったらその時はどうかわかりませんよ」と彼は濁すのである。

室井祐作

室井祐作(TBS政治部記者)

政治部・与党キャップ。2004年入社。映像取材部、外信部、バンコク特派員を経て政治部へ。これまで官邸クラブ、自民党クラブ、野党キャップを担当。特派員時代はアジアを中心に27か国を取材。