2019年1月16日
[ TBS政治部記者 後藤俊広 ]
厚生労働省が賃金などを調べるために行った統計調査が不適切に行われていた問題は、かなり深刻な影響を及ぼしそうです。
去年も厚労省は働き方改革関連法審議の途上で不適切なデータ処理が発覚し、政府は法律の根幹部分である裁量労働制の対象拡大を削除するに至りました。
第一報を耳にしたとき「またか」という率直な印象を持ちました。
しかし、よくよく考えてみると今回の統計の問題は雇用保険などの支給額が本来よりも530億円ほど下回る“実害”が生じ、その対象者はのべ2000万人にも及ぶといわれています。
春に統一地方選挙、夏に参院選挙を控えていることから政府与党にとっては尾を引く問題になるのではと推測されます。
与党側の焦りや苛立ちを伺わせるこんなシーンがありました。
「政府の政策立案の基礎として幅広く用いられている毎月勤労統計について、過去15年に渡り、不適切な調査を行われていたということが明るみにでました。基幹統計としての信頼を損なう事態が生じたことは誠に遺憾であります。厚生労働省のみならず政府全体としての責任を猛省すべきだとあえて指摘したいと思います」(公明・山口代表 1月15日)
これは15日、総理官邸で行われた政府与党の幹部会合での冒頭に発せられた公明党山口代表の発言です。
連立のパートナー公明党の党首としてこれまでも財務省文書改ざん、政治とカネの問題が発生した際には度々政権や自民党に苦言を呈してきた山口氏ですが、今回、少し驚いたのは安倍総理がいる前で、しかもカメラ撮影が行われている中での発言でした。
いわば総理に面と向かって政府として猛省を促すということで危機感の度合いが伝わってきます。
今年は12年に一度の統一地方選挙と参院選挙が重なる選挙イヤーです。
最大の支援団体である創価学会などの組織をフルに活用し、選挙戦を乗り切りたい公明党としては看過できない問題と受け止めたのでしょう。事情は自民党にとってもほぼ同様です。
「12年前に似てきたかもな…」
統計調査の問題を受け、ある自民党関係者は警戒感を強めます。
前回の選挙イヤーを前に当時の第1次安倍政権が苦しんだのが“消えた年金”問題でした。
消えた年金とは、2007年に国民年金など公的年金保険料の納付記録漏れ問題が発覚。その数は5000万件にも及び、与党が参院選に大敗した一つの原因にもあげられています。
“年金”と“保険”の違いはありますが、いずれも厚生労働省が管理する社会保障の分野での不祥事で影響が広範囲にわたる点では共通項が見られます。
今月末に開会予定の国会では大きな争点となるでしょう。おそらく春と夏の大きな選挙の日程を視野に与野党が攻防を繰り広げるのは想像に難くありませんが、実態の解明を第一に心がけてもらいたいと思います。
くれぐれも相手の足を引っ張るだけの“泥仕合”だけはやめてもらいたいと思います。
後藤俊広(TBS政治部記者)
政治部官邸キャップ。小泉純一郎政権から政治取材に携わる。
プロ野球中日ドラゴンズのファン。健康管理の目的から、月100キロを課すジョギングが日課。