NEWSの深層

TBS NEWS

2018年1月23日

「フェイクニュース大賞」発表に潜む“危うさ”

[ TBS外信部デスク 萩原豊 ]

  • トランプ氏が「フェイクニュース大賞」を発表
  • メディア敵視がもたらす“危うさ”
  • 「民主主義は、暗闇のなかで死ぬ」

■「フェイクニュース大賞」と称するリスト

 わざわざ、事前に発表日を予告。当日は、まだか、まだか、と待たせながら、現地時間の夜に、ツイッターでアップした。その直後から、共和党のサイトにアクセスが集中し、一時的に開けなくなる事態にもなった。相変わらず、世界の視線を集める手法は巧みだ。トランプ大統領が「最も腐敗し偏見に満ちたメディアに贈る」としていた、「フェイクニュース大賞」と称するリストを発表した。

1.トランプ大統領が歴史的な圧勝をした日、ポール・クルーグマン教授の「経済は決して回復しない」とする見解を掲載した、ニューヨークタイムズの報道。

2.ロシア疑惑に関するABCテレビの報道。株価を下落させた。

3. 内部告発サイト、ウィキリークスの資料を、当時のトランプ候補と長男のジュニア氏が入手できた、というCNNの報道。

4.トランプ大統領が執務室からキング牧師の胸像を撤去したというTIMEの報道。

5.ワシントンポストは、フロリダ州でのトランプ大統領の集会に、ほとんど人が集まっていなかったとする写真を掲載。人が集まる何時間も前の写真だった。

6.日本を訪ねた際、トランプ氏が池に、鯉に餌を全て投げ入れた映像の、CNNの編集。実際は、先に投げ入れた安倍首相にならっただけ。

7.元広報責任者がロシア側と接触していたというCNNの報道。プロセスが守られていなかったとして記者が辞職。

8.ポーランド大統領夫人がトランプ大統領と握手をしなかったという、ニューズウイークの報道。

9.トランプ大統領がFBI長官コーミー氏から捜査対象ではないと伝えられたという主張にコーミー氏が異議を唱えるとするCNNの報道。

10.トランプ政権が気候変動の報告書を隠ぺいしていた、というニューヨークタイムズの報道。

11.最後は、“ロシアとの共謀!”。ロシア疑惑は、アメリカ国民に対する過去最大のでっちあげだ。共謀など存在しない!

 トランプ氏に批判的な内容ばかりで、既にメディアが「誤報」を認めているものも8件含まれているという。自らの演説、ツイッターなどでの誤った情報は、ほとんど訂正しない一方で、こうした批判を繰り返すトランプ氏。同じ日、議会で、与党・共和党からも諫める声があがった。

 「権力を持った人物が自分の気に入らないメディアを『フェイクニュース』と呼ぶとき、疑うべきなのはメディアではなく、その人物の方なのです」(共和党ジェフ・フレイク上院議員)

■“フェイクニュース”意味の広がり

 大統領選挙期間中、問題となっていたのは、例えば、「ローマ法王がトランプ氏を支持した」という、いわばシンプルな虚偽の情報だった。

 そして、次の発言にも驚いた。トランプ大統領就任式を終えて、参列した人数が「史上最多」と報道官が発表した。アメリカのメディアは、オバマ前大統領就任時の写真と比較して、オバマ氏の方が多かったと指摘。これに関して、ニュース番組に出演していた大統領顧問にアナウンサーが問うたところ、「オルタナティブ・ファクト(=もう一つの事実)だ」と反論した。事実は一つではなく、「もう一つある」のだと。つまり、権力を持つ側が、「都合の良い事実」を作り出すことができる、ということになる。

 さらに事態は進んだ。トランプ氏は、去年、こうツイートしている。

 「The FAKE NEWS media(failing@nytimes, @NBCNews, @ABC, @CBS, @CNN) is not my enemy, it is the enemy of the American People!」

 トランプ氏は、CNNだけでなく、FOX以外の主要なメディア自体を、「フェイクニュース・メディア」とレッテル貼りし、その後も攻撃を続けている。しかも、単なるメディア批判ではない。重要なポイントは、メディアを「アメリカ人全体の敵」とする点にある。

 つまり、これは、政権寄りの一部メディアを別にして、「メディア不信」を極端に煽ることによって、<市民>と<メディア>を分断しよう、という動きに他ならない。民主主義にとって極めて深刻な問題だ。

 米ギャラップ社の調査でも、共和党支持者のメディア信頼度は、2016年と同じく14%までに落ち込んでいる。もはや修復不可能とも思える。ただ一方で、民主党支持者の信頼度は、72%と前年から19ポイント改善している。市民の間の分断も進む結果となっている。

■メディア環境の“激変”

 背景にあるのは、この十年、いや、ここ数年の間に起きていると言っていいかもしれない、メディア環境の激変だ。読者、視聴者に、新聞・テレビが、ほぼ一方的にニュースを届けていた時代から、自ら選択して、多様なメディアやSNSから、ニュースや情報を容易に得られる環境になった。おそらく世界の動向を先取りしていると見られるアメリカでは、主たるニュースの情報源として、18歳から29歳以下では、52%がネット、23%がテレビ、というデータがある。また、30歳から49歳でも、52%がネット、36%がテレビ、さらに、50歳から64歳までの中高年でも、テレビが2016年の72%から64%になるなど、徐々に落ち込みつつあるという。(2017年米シンクタンク・ピューリサーチセンター)

 しかも、3分の2のアメリカ人が、FacebookやtwitterなどSNS経由でニュースを得ているという調査結果がある。

 SNSは、利用者誰もが情報を発信できるツールであり、自分が共感したこと、反感を覚えたことを拡散する。情報を自ら取りに行くというPULL型だけでなく、SNSの普及によって、自ら発信し、友人たちと共有するというPUSH型になっている。虚偽のニュースとわかっていても、拡散したことがあるという人も多い、という調査結果もある。

 では、そもそも、なぜフェイクニュースは発信されるのか?3点挙げてみたい。

(1)アクセス数を稼ぐため

(2)自らと対立する人物や団体を貶めるため

(3)権力が世論を“操作”するため

 特に、注意しなければならないのが(3)だ。虚偽の情報による“世論操作”は、今に始まったことではなく、歴史上、検証されているケースがある。例えば、湾岸戦争前の、イラク兵がクウェートで残虐行為をしたという証言、イラク戦争前の大量破壊兵器情報など。これまでは、メディアの「信頼性」が利用されて、虚偽の情報が流された。しかし、トランプ氏は、一部に虚偽も含んだメッセージを、SNSを使って直接、米国内や世界に発信し、支持者たちが次々と拡散する。一方で、メディアを敵視し、不信感を増幅させる。こうした流れが、世論操作をしやすい環境を形成している、という危うさを認識する必要がある。

■どう対応するのか?

 少々、寄り道となる、三十年以上前の昔話。大学生の頃、新宿の思い出横丁にあった居酒屋での議論を最近思い出す。「テーブルの上に置かれたグラス」を前に、“これは事実か、事実ではないか”と、友人と何時間も激論した記憶だ。心理学を志していた友人は、「それは、本人の認識であって、単純に、事実とは断定できない」という立場を一貫して崩さず、当時、結論は出なかった。この昔話をしながら、事実をめぐる問題について、最近、大学の研究者と話をしたところ、「自分も、絶対的な事実は無い、という前提から始めた方がいいと考えている」との意見を聞いた。

 事実とは何か-?

 この古くて、新しい命題。社会は、決して単純ではなく複雑であり、重層的、多面的だ。また見る人により、立ち位置により、その見え方が大きく変わることがある。だからこそ、事象に対して、より慎重に、冷静に、謙虚に向き合うことが必要となる。

 対立する関係であっても、共有できる「事実」を探る努力を続け、互いの認識の“溝”を埋めていくことが重要ではないか。敵視や排除からは、不毛な結果しか生まれないだろう。

 「民主主義は、暗闇のなかで死ぬ」

 米ワシントンポスト紙のスローガンだ。ホームページなどのトップに掲げられている。有権者が、信頼できる情報がない、判断するだけの十分な情報がない、という「暗闇」に落ち込まないようするには、どうすればいいか。重い課題が突き付けられている。

萩原豊

萩原豊(TBS外信部デスク)

社会部、「報道特集」「筑紫哲也NEWS23」、ロンドン支局長、「NEWS23クロス」、社会部デスク、「NEWS23」番組プロデューサー・編集長などを経て現職。40か国以上を取材。