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2017年9月13日

美味しいチョコレートと宇宙の謎に迫る高エネ研の「Super KEKB」とは…

[ TBS科学担当解説委員 齋藤泉 ]

  • 日本が目指す“世界最強”の加速器「Super KEKB」
  • “最小単位”「素粒子」の研究で宇宙誕生の謎に迫る
  • 放射光を使った分析で食品の品質向上や創薬も可能に

■日本が目指す“世界最強”の加速器「Super KEKB」

 茨城県つくば市にある高エネルギー加速器研究機構(KEK)。ここで今、建設が進められているのが次世代の“世界最強”の加速器「Super KEKB」(スーパー・ケックビー)だ。加速器とは、電子などを光の速さにまで加速して高いエネルギー状態を作り出す。電子のビームと陽電子のビーム、2つのリングからできていて、1周が約3km、直径約1kmある巨大な装置だ。加速した電子と陽電子は「Belle2」(ベル・ツー)と呼ばれる測定器の近くで衝突させ、その反応をみて「素粒子」の性質を調べようというプロジェクトだ。

 これまでの加速器「KEKB」(ケックビー)による実験では、2008年にノーベル物理学賞を受賞した小林・益川理論を証明するなど多くの成果をあげている。その「KEKB」の40倍もの性能を持つ「Super KEKB」は来年の早い時期の稼働を目指している。(航空写真はKEKホームページより)

■“最小単位”「素粒子」の研究で宇宙誕生の謎に迫る

 物質は何でできているのか?この命題については、紀元前のギリシャ時代から様々な仮説が考えられてきた。現在では、物質は「原子」が集まった「分子」でできていることが分かっている。その「原子」は、さらに「原子核」とその周りにある「電子」に分けられる。そして「原子核」は「中性子」と「陽子」で構成され、「陽子」は「クォーク」と呼ばれる「素粒子」の中の1つのグループでできていることが分かった。この「素粒子」は、これ以上分けることができない“最小単位”で、「素粒子」を研究することが、宇宙誕生の謎につながると言われている。

 宇宙の誕生は137億年前に起きた「ビッグバン」と呼ばれる大爆発から始まったとされている。その際に、物質のもとになる様々な「素粒子」が生まれたという。「Super KEKB」では、光の速さまで加速した電子などを衝突させて、「ビッグバン」と同じ状態を作り出し、宇宙を形成する物質と「素粒子」がどのようにして作り出されたのかを探るという壮大なプロジェクトなのだ。

■放射光を使った分析で食品の品質向上や創薬も可能に

 高エネルギー加速器研究機構には、分子や原子のレベルで物質の構造を調べることができる研究施設「放射光科学研究施設フォトンファクトリー」がある。加速器で加速された高エネルギー状態の電子などがカーブするときに「放射光」というビームを放出する。その「放射光」を使って分子結晶の構造などを解析することで、食品の品質向上や新薬の開発などに役立つデータを得ている。

 最近の成果では、チョコレートの脂肪の分子の構造を調べることで、「食感」の良い、美味しいチョコレートを開発、商品化したという研究例がある。また、タンパク質の立体構造を分析することで、新しい薬を創り出すという研究も行われている。製薬会社の中には、研究施設内に独自の放射光ビームを持つところもある。今後は、抗がん剤や免疫抑制剤などの開発が期待されている。

齋藤泉

齋藤泉(TBS科学担当解説委員)

経産省、文科省、外務省など10の省庁を担当。先端技術、ロボット、次世代エネルギー、情報通信など取材。東日本大震災後は福島第一原発の廃炉の現場取材を継続。趣味はジャズと映画鑑賞。合気道二段。