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TBS NEWS

2017年8月10日

7千人の女性を性的暴行、ボコ・ハラム被害の深刻~アフリカにある“世界の縮図”

[ TBS外信部デスク 萩原豊 ]

  • 「イスラム国」弱体化も・・・根強い過激派
  • ナイジェリアは“世界の縮図”
  • 取り残された地域に“時限爆弾”

■過激派弱体化の傾向も・・・被害は深刻

 “崩壊”が近いことを印象づける勝利宣言だった。イスラム過激派組織「イスラム国」がイラク最大の拠点としてきたモスルで、先月、イラクのアバディ首相が演説し、「完全奪還」を発表した。

 この「イスラム国」に忠誠を誓うアフリカのイスラム過激派が、ボコ・ハラムである。ナイジェリア北東部を主要な活動拠点とするスンニ派組織。2002年ごろの結成と見られるが、国際社会を驚愕させたのは、2014年4月、276人の女子生徒を拉致した事件。ナイジェリア北部のボルノ州の学校寄宿舎から女子生徒たちを誘拐し、「奴隷として扱う」と宣言、世界から非難を浴びることとなった。赤十字国際委員会などの交渉によって、今年5月、拉致された女子生徒のうち82人が解放された。治安当局に拘束されていたボコ・ハラム戦闘員との人質交換だったという。

 国連の報告書によると、ボコ・ハラムは、ナイジェリア北東部を中心に、去年12月までの4年間に、少なくとも3900人の子どもを殺害、7300人以上に重傷を負わせた。ニジェール、チャド、カメルーンも含め、自爆テロに90人の子どもを使った。そのほとんどが、少女だった。さらに、少なくとも7000人の少女や女性が性的暴行を受けたという。

 インフラの被害も甚大だ。約1500の学校が破壊された。もともと、この「ボコ・ハラム」という名称は、現地の三大言語の一つ、ハウサ語で、「西洋の教育は禁じられている」という意味だという。教育の破壊も、大きな目的だったのか。

 しかし徐々に、ボコ・ハラムの勢いも衰えているという。ナイジェリア政府軍と周辺国による掃討作戦が功を奏したと見られる。この結果、これまで表面化しなかった深刻な人道危機が明らかになってきた。国連によれば、ボコ・ハラムの活動地域で、人道支援が必要な人が1070万人にのぼり、230万もの人たちが家を追われ、国内外の難民となっているという。

 「道路や住宅、病院などの社会インフラが破壊されています」

  UNDP=国連開発計画ナイジェリア事務所の野口義明氏は、現地に駐在して10か月、日本の外務省から「レベル4」(退避勧告)とされている、治安が極めて悪い北東部にも、時に片道10時間以上かけて通い、危機を目の当たりにしている。平均収入が、1人1日あたり0.4ドルと「絶対貧困」(1日1.25米ドル未満)の基準をはるかに下回っており、6割の人々が安全な水さえ使える状況にないという。

 「先週も油田調査の職員が誘拐された末に、戦闘があり、40人以上が死亡する事件がありました。今も自爆テロが頻発しています」

 AFP通信によると、今月初めにも、ボコ・ハラムが、チャド湖にある2つの島を襲撃し、少なくとも31人の漁師を殺害した。ナイジェリア政府軍などによって、ボコ・ハラムに占領されていた地域は解放されているにもかかわらず、なぜ、テロが続いているのか?

 野口氏によれば、ボコ・ハラムは、ここに拠点がある、ということではなく、地下に潜っている状態と言え、「心の中で共鳴している若者たち」が活動するところに、対策の難しさがあるという。貧困、不満、地域的な繋がりの欠如が、暴力的過激主義に若者たちを向かわせている。ここに、いわゆる“過激化”の問題がある。

■ナイジェリアに“世界の縮図”

 面積は日本の2.5倍。人口は1億8千万人を超え、アフリカ最大である。「ナイジェリアの状況は、世界の縮図と言えると思います」。ナイジェリアの一人当たりの名目GDPは3,203ドル。ケニア(1,358ドル)やガーナ(1,442ドル)などに比べて2倍以上。ところが、貧困率が53.5%と、ケニアやガーナの20%、30%代と比べると圧倒的に多い。これは、富裕層と貧困層の格差が極端に大きいことを意味する。また国のなかでも、北東部が開発から取り残されている。この貧困地域が過激主義を生み、住民が難民となっていく。野口氏は、この状況を世界全体に重ね合わせ、「縮図」のようだと話す。

 ナイジェリアで、過激主義と貧困問題が絡み合う“取り残された島”を、十年ほど前に取材したことがある。その年に頻発していたのは、武装勢力による原油パイプラインの「破壊」や石油関連会社に勤める外国人労働者の「誘拐」だった。この影響で、ナイジェリアからの原油は2割以上の減産となり、世界的な原油高の要因の一つとなっていた。

 取材に入る前、関係者から1本のテープを渡された。テロを繰り返していた武装勢力の姿を撮影した映像だという。再生すると、ボートに乗った覆面を被った黒ずくめの男たちが画面に現れた。手には機関銃を持っている。ボートのなかには、白人が数人。そして白人たちが、別のボートへと乗り換えていった。映像は、数か月前に誘拐されたアメリカ人労働者が、身代金と引き替えに海上で解放される瞬間だった。

 武装勢力とは、MEND=ニジェールデルタ解放運動と呼ばれている地元組織だった。MENDが声明で表明した犯行の目的は、「原油利益の地元還元」。これは何を意味するのか?

 MENDが活動する主な地域は、ナイジェリア南西部のニジェールデルタ。その名の通りデルタであり、アフリカ最大の油田地帯にある。まず拠点となる都市、ポートハーコートに入った。クラクションが鳴り響く、激しい渋滞。都市の幹線道路なのに、舗装も限られている。だが、中心部には、国際的な石油企業が数多く事務所を構え、高級ホテルが建ち並んでいるのが一際目立っていた。

 ニジェールデルタでの取材は、外国人が多数誘拐されている地域であり、外国人ジャーナリストも、ターゲットになる可能性があることから、現地関係者から「危険」と警告された。欧米メディアは、ほとんど、この地域に取材に入っていないという。だが、現地コーディネーターは、当該地域での取材を重ねており、日の出すぐに出発し、日没前に戻ることを繰り返す、という条件で、デルタ地帯へと入った。

 ニジェールデルタにおける最大の州、オゴニ。「オゴニ州民生存運動」という組織の事務所を訪ねた。日本語に訳すと仰々しいが、市民の暮らしを守ろうと結成された組織だ。代表は、レダム・ミッティー氏。穏やかな表情だが、リーダーの風格が漂う顔立ちと声だった。彼に現場の案内をお願いした。車で移動すること30分あまり。民家も何もない平原に、巨大なパイプラインが現れた。

 「ニジェールデルタ東部の他の地域から、(原油が)こちらに入ってきています」

 住民運動を主導する彼は、私たちを、まず、この場所に案内した。パイプラインの一部から、黒い原油が漏れ出ていた。臭いもきつい。

 「これらの原油全てが、より大きな溝に流れ込み、水源にも流れ込んでいくのです」

 飲み水や農業のための水源に、原油が流れ込むという深刻な実態。漏れ続けるパイプラインを丁寧に撮影していると、「ここは、小さな問題だ」と、さらに移動を促された。

 草むらの中を進む。ちなみに、この地域は、湿地帯のため、マラリア蚊も多い。取材に入る前に、「最強」と言われる虫除けスプレーを腕や顔に塗ってきた。日本の虫除けからは想像できないほど強い臭い。皮膚の表面は、油のような膜で覆われる。マラリア予防薬のタブレットも、数日前から飲んでいた。

 草むらを抜けると、突然、目の前に現れたのは、“原油の池”だった。真っ黒な原油が、広大な範囲に溜まっていた。ミッティー氏が、怒りを込めて語った。

 「ご覧の通り、過去3年、1日24時間、流出し続けているのです。そして、今も増え続けているのです」

 「被害は、これに留まらない」と、手漕ぎボートで沖に向かう。すると、海の表面に、油が浮き始めた。

 「今までなら、マングローブを登る蟹を見ることができたでしょう。しかし、ここには、もういません。生息できないからです」

 マングローブの根元には、油が黒くこびりついている。さらに進むと、海のなかから、真っ黒な原油が、まるで噴水のように噴出していた。4か月もの間、放置されているという。

 「こうしたことが起きると、(石油会社に)出来るだけ早く連絡するようにしています。しかし、もしも操業復帰させないのなら、被害を受け入れろ、という石油会社の脅迫を感じるのです」

 このオゴニ村には、100近い油井があり、石油メジャーの進出が相次いだ。しかし、地元住民は、その恩恵を受けないばかりか、環境破壊に苦しんできたという。このため、90年代前半から、民衆の運動が活発化し、石油会社や政府と衝突。1000人にのぼる犠牲者も出した。結局、石油メジャーは、操業停止を余儀なくされていた。

 地元の議会副議長は、武装グループに対する“共感”さえ口にした。

 「私たちは、彼ら(MEND)に共感していますよ。彼らが、きちんと扱われていたら、自分たちの要求をするために、武器など持たないはずですから。適切に手続きが踏まれれば、武器は置かれ、平和が回復すると思います」

 問題は、環境破壊ばかりではない。さらに“見捨てられた島”と呼ばれる村へと向かった。MENDの活動拠点の一つである。デルタ地帯のなかに、迷路のように入り組む水路をボートで進む。村の名をソクという。人口は、およそ1万人。この村も、油田や天然ガスが豊富で、石油メジャーが進出してきた。

 村で、一人の青年に出会った。シルヴァノス、24歳。妻と生後4か月の子供とともに、両親と13人の兄弟の暮らしを支えていた。海に浮かぶ平屋の自宅は8畳ほど。暮らしの厳しさは、一目瞭然だった。彼に、村が抱える問題の現場を案内された。

 「この水は、錆びています。私たちは水も十分にないのです。飲むものがありません」

 石油メジャーが提供したという水道施設は、全く役に立っていなかった。井戸さえも、飲み水には使えないという。井戸の水は、強い油の臭いがした。村人は、飲み水のパックを、金を払って買わざるを得ない状況だった。

 「子供たちを見てください。この村には、学校もないのです」

 毎日、莫大な利益を上げる原油を産出しながら、水、病院、学校もない、“取り残された島”だった。シルヴァノスや友人は、自らの夢について、こう話した。

 「仕事をください、ガスプラントに行けばわかりますが、ソク村の住民は、一人としていないのですよ」「この村が発展してほしいのです。子供たちや父親たちが、石油の利益を享受できるようになってほしい。この村が産出しているのですから」

 仕事を得られぬ若者たちの中には、暮らしへの不満と憤りから、MENDなどの武装組織に身を投じた者も多いと言われていた。

■取り残された地域の“時限爆弾”

 オバマ前大統領の最後の演説に、象徴的な一節がある。

 日本からナイジェリアまでの距離は1万5000キロ。遠い国の話に聞こえるかもしれない。だが、ナイジェリアなどからの難民が、欧州の政治、社会を揺るがしている。相次ぐ自爆テロは、暴力的過激主義を世界に拡散させる。日本にも大きな影響を与えている問題と言える。こうした現状について、国連開発計画の野口氏は、「ナイジェリアには、数多くの“時限爆弾”がある」と表現する。だからこそ、取り残された地域を国際社会は放置してはならない。日本も、世界12位だが、ナイジェリアに対する人道支援の資金を国連に拠出。これまでに、学校や庁舎の建設、農業援助、過激主義対策などのプロジェクトが進められている。

 「時限爆弾」を取り除くということは、まずは、取り残された地域でインフラなどを整備し、食糧危機にある700万人を救うという、長い道のりを進むことに他ならないと言えるだろう。

萩原豊

萩原豊(TBS外信部デスク)

社会部、「報道特集」「筑紫哲也NEWS23」、ロンドン支局長、「NEWS23クロス」、社会部デスク、「NEWS23」番組プロデューサー・編集長などを経て現職。40か国以上を取材。