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TBS NEWS

2017年7月25日

人工知能がスポーツ選手を育てる時代

[ TBS科学担当解説委員 齋藤泉 ]

  • 企業経営を支えるBI=ビジネス・インテリジェンス
  • BIツールによる分析がスポーツを変える
  • 人工知能がスポーツ選手を育てる時代に

■企業経営を支えるBI=ビジネス・インテリジェンス

 今、企業の経営に大きな役割を果たしているのがBI=ビジネス・インテリジェンスだ。BIとは企業が持つ経営や財務、会計などのデータを蓄積して分析し、経営戦略を作る際に役立つ情報を提供する技術のことを言う。このBI分野で、世界で最も急成長していのが米国のTableau社(タブロー)だ。Tableau社のBIソフトは「セルフサービス型」と呼ばれ、自分でリポートを作ることができる点が優れているという。企業の売り上げデータなどを細かく分析し、売れている商品とそうでない商品、成長している分野とそうでない分野をグラフにするなど分かりやすく可視化することで経営の意志決定をサポートする。ここ数年、BIを活用した企業経営が世界の主流になっている。そして、このBIがスポーツの世界も変えようとしている。

 大手IT企業の日本ユニシスには、リオ五輪のバドミントン女子ダブルスで金メダルを獲得した“高松ペア”こと、高橋礼華選手と松友美佐紀選手をはじめ世界で活躍する多くのバドミントン選手が所属している。日本ユニシスはこのほど、Tableau社とペアを組んでバドミントンの試合分析を試みた。

■BIツールによる分析がスポーツを変える

 上の図は日本ユニシスに所属するバドミントン男子ペア選手の試合のビデオ画像をもとにショットとシャトルの位置をデータ化したものだ。下側の緑色の線がユニシスの選手、上側の青色の線が相手チームの選手の動きで、黄色い線がシャトルの軌跡を表している。これまでは監督や選手はビデオ画像を見ながら試合内容を分析し、弱点はどこか、どうすれば克服できるかなどの戦略を考えていた。しかし、BIを活用して動きを細かく可視化することで、ビデオでは気づかなかったことや見落としていた課題が分かるようになったという。

 このプロジェクトを担当している日本ユニシスAI企画室の萩原喜武氏は、こうしたBIによるデータから「相手選手が意識的にユニシスの選手をコートの右側か左側に寄せるようなショットの打ち方をして試合そのものをコントロールした形跡なども分かる」と述べる。相手チームの分析には大変役立つツールだという。

 この図は時系列でショットの種類と量をグラフにしたものだ。上側が日本ユニシス側の選手だが、試合が進むにつれて「プッシュ」と呼ばれるショットが格段に増えていることが分かる。「プッシュ」とはネット手前で低めに来たシャトルを相手コートに押し込むように入れるショットだ。この試合はユニシス側が勝ったが「プッシュ」が増えているのは、後半に選手が疲れて試合を早めに終わらせようとしたのではないかという分析もできるという。また、萩原氏は「ネット近くでプッシュした場合は得点率が高いが、ネットから少し離れると失点率が高くなるなど、その選手の弱点など特性がよく分かる。選手本人も可視化されたデータをもとに指導を受けるので納得感がある」と話す。

■人工知能がスポーツ選手を育てる時代に

 今、ビッグデータと人工知能が世界を変えている。スポーツの世界も、この流れに飲み込まれようとしている。BIを活用した分析はチーム競技だけでなく個人競技でもデータが取れるスポーツであれば、すべてに応用できる。例えば格闘技でも選手の姿勢や相手とどうやって組んで技をかけるのかなど体の動きを記録することで可視化したデータを作ることができるという。これまで人間が主観的に分析してきたものを人工知能が膨大なデータをもとに多角的な分析を行う。ペアを組む競技の場合は、人工知能が選手の特性を分析し、お互いの能力を伸ばせる選手の組み合わせを見つけることもできる。将来は、スポーツ選手の育成やチームの強化で人工知能が的確なアドバイスをくれるようになる。優れた人工知能と正確なデータ分析が、優秀な選手を育て、チームを強くする時代が来るという。人工知能によるスポーツ選手の育成、ビジネス展開も視野に入れた試みが進められている。

※試合写真とデータ図は日本ユニシス提供

齋藤泉

齋藤泉(TBS科学担当解説委員)

経産省、文科省、外務省など10の省庁を担当。先端技術、ロボット、次世代エネルギー、情報通信など取材。東日本大震災後は福島第一原発の廃炉の現場取材を継続。趣味はジャズと映画鑑賞。合気道二段。