NEWSの深層

TBS NEWS

2017年7月18日

“CNN機”の爆撃動画まで、戦略的?トランプ氏がメディア攻撃をするワケ

[ TBS外信部デスク 萩原豊 ]

  • 女性キャスターを侮辱・・・プロレス動画も
  • 共和党支持者のメディア不信と社会の分断
  • Post-truthの時代

■女性キャスターに「知能指数低い」「クレイジー」

 今に始まったことではない。だが、このところ、アメリカ・トランプ大統領のメディア攻撃が激化している。しかも、大統領、いや、とても大人のものと思えない内容だ。先月29日、ターゲットになったのは、女性キャスターだった。MSNBCの情報番組「モーニング・ジョー」で、キャスターを務めるミカ・ブレジンスキー氏が自分を批判したことを受けて、「視聴率の悪いこの番組は、私の悪口を言っているそうだ」と発信。この程度なら、これまでのトランプ氏を考えれば想定内だが、さらにミカ氏を名指しして、「低い知能指数のクレイジーなミカ」「美容整形でひどく血が出ていた」とまで記した。

 また、CNNが、トランプ大統領の関係者とロシアのつながりに関するオンライン版の記事を撤回し、執筆した記者や調査報道チームトップら3人が辞職した。この件を契機に、「CNNがついに、ごみジャーナリズムだと露呈した。やるなら今だ!」「偽ニュースのCNNの視聴率は、がた落ちだ!」。

 さらに、トランプ政権に批判的な報道が多いニューヨーク・タイムズやワシントン・ポスト、3大テレビネットワーク(CBS、NBC、ABC)を挙げて「全て偽ニュースだ!」とまで言い放った。

 そして、批判が殺到した「プロレス動画」をツイートしたのだ。動画は、トランプ氏がプロレス番組に出演した10年前の映像を加工したもの。倒される男の顔に「CNN」のロゴ。そして、最後にCNNをもじった「FNN=Fraud News Network(詐欺ニュースネットワーク)」という表示で終わる。あまりにも幼稚だが、“権力とメディア”の視点から見ると深刻な事態だ。

 CNNは声明で、「アメリカの大統領が記者への暴力を奨励するとは、悲しむべき日だ」などと批判した。与野党の議員からも、非難の声が上がった。それでも大統領は、支持者の前で強気の姿勢を崩さない。

 「フェイクメディアが、私たちを黙らせようとしているが、そうはさせない。なぜなら、どちらが正しいか、人々はわかっているからだ」

 さらに、トランプ大統領がCNNを攻撃する新たな加工動画を、大統領の長男であるドナルド・トランプJr氏がツイートした。1986年の大ヒット映画『トップガン』の映像を加工した動画。トム・クルーズ演じるパイロットの顔がトランプ大統領に置き換えられ、CNNのロゴを貼り付けた戦闘機を撃墜する。親子で、子どもじみた“CNN攻撃”動画を拡散させた。

■トランプ支持者のメディアへの信頼

 なぜ、メディア攻撃を一層強めているのか?

 「フェイクメディアが、私たちを政権から引きずり降ろそうとしている。でも大統領は、私だ!彼らではない!」

 集会でのトランプ氏の言葉だ。確かに、“ロシアゲート”をめぐる米メディアの調査報道は、政権を揺るがしかねない。上智大学の前嶋和弘教授は、「トランプさんには、深い考えがある」と、メディア攻撃を戦略的に行っていると見る。「大統領にとって最も怖いのは、弾劾されることです」。その弾劾手続きは下院から始まるが、その下院は、およそ1年半後に中間選挙が迫っている。「共和党の支持者たちがどこを見ているのか、とても見ているんですね。トランプさんにとっては、共和党支持者を留めておけば、弾劾対策になっている。下院議員たちも動けない、そこがまず大きくあると思います」。

 では、共和党支持者はどこを見ているのか?

 興味深い世論調査のデータがある。「報道機関による批判が指導者を正しい状態にすると考えるか?」。つまり「メディアによる権力監視機能」を支持する割合が、2016年は民主党支持者で74%、共和党支持者で76%と、ほぼ同程度だった。ところが、今年に入ると、民主党支持者が89%に上昇したのに対して、共和党支持者では42%に急落した。つまり、共和党支持者の多くが、報道機関のジャーナリズム機能を支持していないのだ。

 さらに、ニュースを知る「主たるメディア」についても、こんなデータがある。クリントン氏に投票した有権者では、CNN18%、MSNBC9%、Facebook8%、ABC6%、FoxNews3%などとなっている。一方で、トランプ氏に投票した有権者では、FoxNewsが40%で、CNN8%、Facebook7%と、圧倒的に、保守系のFox Newsの割合が大きい。(Pew Research Center調べ)

 民主党支持者と共和党支持者で、接触するメディアが、これほどまでに異なっている。2000年代前半から放送メディアにも党派性が出てきたことで、さらに“メディアの分極化”が進んだ。これと並行して、市民がメディアを「選ぶ」時代となった。そこには、「“敵側の情報”を信じない土壌」が生まれ、この結果、政治的分極が進み、アメリカ社会は、「かつてない分断」(前嶋教授)の状態だという。

 こうした背景を見れば、トランプ大統領は、“CNN攻撃”によって、共和党支持者のメディア不信を一層煽ることで、自らへの支持を手堅く固めていると言える。

■Post-truthの時代

 オバマ前大統領の最後の演説に、象徴的な一節がある。

 「And increasingly we become so secure in our bubbles that we start accepting only information,whether it’s true or not,that fits our opinions,instead of basing our opinions on the evidence that is out there.」
(=そして、より一層、私達は自分自身の殻に閉じこもり、その情報が真実か否かに関わらず、自分の意見に適合する情報のみを受け入れることに、心地良さを覚えるようになります。自らの意見を証拠に基づくものとすることなく・・・)

 これは、アメリカ社会だけの問題ではない。Facebook、twitterなどのSNSでは、ユーザーが好む情報が、より優先的に提供される仕組みとなっている。まさに、自らの「殻」のなかで、好みの情報だけに接触する危うさがある。しかも、それが「真実か否かに関わらず」「Post-truth」(=ポスト真実)。今や時代のキーワードとなった。英オックスフォード辞典は、「世論形成において、客観的事実が、感情や個人的信念に訴えるものより影響力を持たない状況」と定義している。

 あるテーマで、賛成、反対のグループができる。双方のグループ内では、自らの意見に近い情報だけが、ループのように拡散し、「心地良さを覚える」。そして、立場の違うグループの情報を、「偽ニュース」と断ずる、という悪循環となっている。

 デジタルメディア環境の劇的な変化も大きな影響を与えている。このままでは、世論の分断は一層進んでしまうだろう。これをどう食い止めるのか、私たちは重い課題を抱えている。

萩原豊

萩原豊(TBS外信部デスク)

社会部、「報道特集」「筑紫哲也NEWS23」、ロンドン支局長、「NEWS23クロス」、社会部デスク、「NEWS23」番組プロデューサー・編集長などを経て現職。40か国以上を取材。