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TBS NEWS

2017年6月19日

皇室取材余話【6】「全身全霊」

[ TBS解説室長/宮内庁担当 牧嶋博子 ]

 6月9日に天皇陛下の退位を認める「天皇の退位等に関する皇室典範特例法」が成立しました。

 去年10月から始まった有識者会議の議論を経て、法律の成立まで、およそ6か月の短期間でした。これから政府は、実際にいつ退位を行い、改元をするのかについて、政令で定めなくてはなりません。また宮内庁は、代替わりに伴う、儀式や上皇后を支える体制や警備、お住まいなどの具体的な検討に入ります。

 法案が成立した午前10時過ぎ、天皇陛下は、信任状捧呈式の最中でした。また皇太子さまは金沢市で開かれる「第28回全国みどりの愛護のつどい」に出席するため、東宮御所を出られる直前でした。お二人ともいつものように、公務に忙しい一日でした。

 私は、皇太子さまに同行して、北陸新幹線で金沢市に向かっていました。JR金沢駅を降りて驚いたのは、大変多くの市民が出迎えていたことです。今回のご訪問は雅子さまの体調が整えば、ご夫妻での予定でした。しかし、雅子さまの風邪の症状が長引き、残念ながら皇太子さまお一人となりました。ご一緒でしたら、どんなに良かったかという思いを強く持ちましたが、それにはもう一つ理由があります。

 6月9日は皇太子ご夫妻の24回目結婚記念日なのです。来年は銀婚式です。法案成立の日は、ご夫妻にとっての記念日でもあるのです。奉迎の市民の中には「皇太子ご夫妻結婚記念日おめでとうございます」と書いた手作りのプラカードを持った人がいました。「法案成立と結婚記念日が重なった日に、次の天皇陛下となる皇太子さまに、金沢においでいただいてうれしい」という市民の声も聞かれました。

 皇太子さまはこの日は、石川県立いしかわ特別支援学校などを訪問し、障害を持った児童生徒のバッグ作りや体育の授業を視察されました。児童や生徒に「むずかしいところはありますか?」「勉強は何が好きですか?」などと声をかけて交流されました。

 6月9日は、それだけではありませんでした。夕方の石川県の谷本正憲知事と宮内庁の共同記者会見。その席で、知事が、自身の結婚記念日であることを明かしたのです。皇太子さまに祝意を伝えるとともに「実は私も結婚記念日です」と話すと、皇太子さまはにこにこと笑っておられたそうです。

 さらに6月9日は続きます。部屋に帰って、テレビをつけて、「NEWS23」を見たら、今日は安倍総理夫妻の30回目の結婚記念日だと放送していました。なんと。

 皇太子さまは、13日、デンマーク公式訪問を前に記者会見で、象徴天皇の役割を引き継ぐことについて「それぞれの務めに全身全霊で取り組んでまいりたい」と述べられました。去年8月の陛下の退位の意向がにじむ「お言葉」の中で陛下は象徴天皇の務めについて「全身全霊で果たせなくなると案じている」と述べています。同じ「全身全霊」の言葉が出た瞬間、私は「おお!」と思いました。皇太子さまの静かな決意が伝わってきました。

 皇太子さまが天皇になられる日が刻々と近づいています。

牧嶋博子

牧嶋博子(TBS解説室長/宮内庁担当)

1983年にアナウンサーとして入社。87年から記者として、労働省、文部省、都庁、環境省、厚生労働省を担当。現在解説専門記者室長として宮内庁を担当。夫との共著「中学受験で子どもと遊ぼう」。