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TBS NEWS

2017年6月14日

「核テロ」の脅威、日本はどう向き合うのか

[ TBS政治部記者 久保雄一 ]

  • 「イスラム国に核が渡れば」、オバマが鳴らした“核テロへの警鐘”
  • 実態不明の「核のヤミ市場」
  • 「起きたら終わり」を起こさせないために

■オバマが鳴らした“警鐘”

 今月初め東京で開かれた「核テロ対策国際会議」。初めて日本で開催され、約90か国から200人近い政府関係者らが参加する大規模な国際会議だった。ホスト国の日本は「核テロ」の脅威に関連し、北朝鮮が去年実施した2度の核実験と相次ぐ弾道ミサイル発射を挙げ「国際的な軍縮と核の不拡散体制に対する新たな段階の脅威」と強調した。

 この会議は、2006年のG8(当時)サミットでアメリカ、ロシアの両大統領が提唱し、スタートした。米ロ両国が共同議長を務め、NPT=核拡散防止条約に加盟していないイスラエルやインド、パキスタンも出席する。日本の外務省は「軍縮・不拡散分野での貴重な枠組み」と重要性を強調するが、会議は注目を集めなかった。

 国際社会で「核テロ」対策の必要性が指摘されたきっかけは、2001年のアメリカの同時多発テロだ。あの史上最悪のテロを契機に、国際社会はテロ対策強化に取り組むことになったわけだが、残念ながらテロはその後も止むことはなく続いている。世界はアルカイダに代わり、イスラム過激派組織「イスラム国」の脅威に直面し続けている。こうしたテロ組織はいつか核を使ったテロを引き起こす。これを防止することが、いま最も重要な課題なのだ。

 去年、ワシントンで開催された「核セキュリティサミット」でのスピーチで、オバマ大統領(当時)はこう警鐘を鳴らした。

 「幸運なことに、これまでの努力のおかげで、放射性物質を用いて核兵器や、ダーティーボム(汚い爆弾=放射性物質を発散させる装置など)を作ることに成功したテロ集団はいない。しかし我々は、アルカイダが試みたことを知っている。ISIL(=イスラム国)は既にシリアとイラクで化学兵器を使用している。核兵器や核物質を手にすることがあれば、それを使うことは間違いない」

 オバマ大統領(当時)は、アルカイダが核テロを「試みた」と明かしたうえで、イスラム国が核兵器や核物質を入手すれば「使うことは間違いない」と、はっきり警告したのだ。

■実態不明の“核のヤミ市場”

 核テロに繋がる深刻な事象が放射性物質の流出だ。原子力研究開発機構などによると、1994年、ドイツ・ミュンヘン空港に到着したモスクワ発ルフトハンザ機からプルトニウム、ウランの混合粉末560グラムなどが発見、押収された。分析の結果、一部は旧ソ連の原子炉の使用済み燃料から取り出されたものと判明した。ソビエト連邦崩壊の混乱で、管理が甘くなった施設から流出したと見られる。

 これはごく一部のケースで、IAEA=国際原子力機関のデータベースによると、1993年から2015年までに加盟国から報告された「核セキュリティに関する不法行為」は2889件。このうち核物質及びその他の放射性物質の不法所持は454件、物質の盗難・紛失は762件に上る。(その他は不適切、無許可管理など)

 流出ケースではないが、去年3月ベルギーで起きたテロ事件では、犯行グループが原子力施設で働く技術者を監視していた。技術者を誘拐し、施設から放射性物質を強奪することを視野に入れていた可能性もあると言われる。

 IAEAは「放射性物質の取引の需要ある」と指摘している。言い換えればマーケットは存在する、ということだ。しかし「成功した取引は把握できていない」のだという。「核のヤミ市場」の実態は掴めていないのだ。

■「起きたら終わり」を起こさせないために

 「起きたらある意味“終わり”なのが核テロだ」。外務省の担当者は、その脅威をこう表現する。放射性物質をまき散らす「ダーティーボム」ならば、被害は長期且つ甚大なものになりうる。それゆえ起こさせてはいけないのが「核テロ」だが、現実感に乏しいためか、担当者に言わせると「日本国内の認識は高くない」のだという。

 今回の国際会議の後、出席した外国政府関係者約30人が、茨城県の「核不拡散・核セキュリティ支援センター」を視察に訪れ、3Dのヴァーチャルリアリティによる核関連施設の警備を体験した。去年のベルギーのテロの際、現地では原子力発電所がテロの標的になりうるとして、厳戒態勢が敷かれた。原発など核関連施設の警備強化は今後も重要課題だが、警備の在り方を情報共有するにしても、実際の核関連施設を公開するのは保安上難しい。

 その点、立体的に見えるヴァーチャルリアリティの施設は便利だ。死角を作らない侵入防止センサーや監視カメラの設置など、警備上のポイントも説明しやすい。参加者は興味深げにヴァーチャル警備を体験し、NPT未加盟の核・原発保有国パキスタンの政府関係者は「自分の国にも取り入れたい」と話していた。

 しかし、筆者が参加者に「核テロの脅威は今後増えると思うか」と尋ねたら、即座に「No」と答えが返ってきた。「施設を守るための洗練されたシステムがあるから」だという。テロ多発地域ゆえ脅威は日常的で、対策は万全と言いたかったのか、それとも不安を気取られたくなかったのかは分からない。

 日本で「核テロ」が起きない保証はない。2020年の東京オリンピック・パラリンピックを控え、政府は核セキュリティの強化や、国内の意識向上に取り組むとしている。会議は注目されなくても、何が必要な対策かは外に見える形でもっと議論されていい。一方、テロ対策は国民の行動を時に制限し、負担を強いる側面もある。最悪のテロを起こさせないため国民に何を伝え、理解と協力を求めるのか、課題は依然残っている。

久保雄一

久保雄一(TBS政治部記者)

社会部、政治部を経てソウル支局長。現在は外務省担当として朝鮮半島問題を専門としている。趣味はラグビーとマラソン(一応、サブフォー=フルマラソン4時間切り)。