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TBS NEWS

2017年6月7日

北朝鮮のミサイル「これまでとは格段に違う脅威」、どう対応?

[ TBS外信部デスク 萩原豊 ]

  • 直近の発射ミサイルは新たな脅威
  • 北朝鮮から送られている“シグナル”?
  • 核・ミサイル開発をどう止めるのか?

■軍事専門家が驚いたミサイル

 「正直驚きました。これまでとは格段に違う脅威です」

 長く北朝鮮の軍事技術を研究してきた早稲田大学アジア研究所客員教授の恵谷治氏は、5月28日に発射されたミサイルの映像を見て語気を強めた。

 金正恩(キム・ジョンウン)体制下では、様々な種類の弾道ミサイルの発射が繰り返されてきた。国際社会から自制を求める声があがっても、それを無視する形で加速している。米朝関係の緊張が高まるなか、5月には3週連続で発射された。

 では、28日のミサイルは、これまでのミサイルと何が違うのか?

 ミサイルは、東部の元山付近から発射され、およそ400キロ飛び、日本のEEZ=排他的経済水域内に落下したと推定されている。改良型のスカッドERとみられる。北朝鮮の国営メディアが報じた映像や写真から、恵谷氏は、まず、弾頭部に、フィンのような方向舵がついていることに着目した。つまり弾頭が分離された後、GPS=衛星測位システムによって、誘導することが可能とみられるという。

 北朝鮮の国営メディアも、「精密操縦誘導システムを導入した弾道ロケット」を新たに開発したと報道。目標に向けた「命中誤差は7メートル」とした。恵谷氏は、「400キロ先の目標で、誤差7メートルはあり得ない」と苦笑したうえで、こう話した。

 「これまでは、スカッドあるいはノドンも、命中精度が悪いという意味で、私個人も、高を括っていた部分があります。しかし、GPSを積んだミサイルということであれば、命中精度が格段にあがる大変な脅威になります」(恵谷氏)

 普段は冷静に解説する恵谷氏が、何度も「これまでとは違う脅威」と強調した。さらに、軍人の制服からわかることがあるという。4月15日の軍事パレードで初めて登場した「迷彩服」を着ている兵士が、ミサイル発射を主導。同じ迷彩服を着た戦略軍司令官が、金正恩党委員長に説明している。これまでの発射実験では、党の第二自然科学院の科学者が担当していたという。

 この変化から、恵谷氏は、今回は「実験」ではなく「演習」であり、このミサイルが、北朝鮮の陸軍の指揮下にある、戦略軍に実戦配備されたということを意味していると分析する。

 「ミサイル開発のスピードは、加速している。本当に驚いています」(恵谷氏)

 金正恩氏は、金日成軍事総合大学の砲兵指揮官科で学んだとされている。ミサイル技術についても理解が深いと推察される。失敗も繰り返しながら、着々と技術の向上に邁進しているのだ。

■北朝鮮からの“シグナル”?

 今年4月からアメリカと北朝鮮の間で緊張が高まっている。そうしたなかでも、5月には「火星12型」「北極星2型」など弾道ミサイル3発と迎撃ミサイル1発を発射するなど“挑発”を繰り返す北朝鮮。そのたびに、国連安全保障理事会が非難する声明などを出しているが、北朝鮮は無視を続けている。

 「米国が肥大した変態動物のような原子力空母などで我々を威嚇、恐喝してみようとしているが、そのような米国式虚勢は我々には通じず、(中略)世紀と年代を継いで、わが民族に計り知れない罪悪を働いた米国に、いまだ味わえなかった恐ろしい報復と苦い惨敗を与えようというのが、我が軍隊と人民の反米決戦意志である」(5月28日付朝鮮中央通信)

 国営メディアには、アメリカを激しく批判する記事が何度も掲載されている。北朝鮮は、挑発行動をさらにエスカレートさせるのではないか、とも受け止められる。

 だが、慶応大学法学部の礒ざき敦仁准教授は、別の見方を示す。

 「北朝鮮は、本音では戦争を防ぐための懸命の努力をしています」

 その根拠の一つとして、アメリカや在日米軍基地を攻撃する、という攻撃的な言動は、決して金正恩氏の言葉ではなく、外務省や報道官の談話の形を取っていることを指摘した。

 確かに、上記の発表も、「朝鮮平和擁護全国民族委員会の報道官談話」である。また、内閣首相のスピーチでは、「経済成長が重要」と強調されていること、19年ぶりの最高人民会議では、外交委員会が復活したこと、また、金正恩氏が、最高人民会議にも閲兵式にも参加、養豚工場などを視察するなど、雲隠れしなかったことなども、すぐに、攻撃する態勢になかったことを示すという。核実験が、去年9月から実施されていないことも、「北朝鮮が自制していると見るべき」と話す。

■“圧力と対話”国際社会はどう対応?

 確かなことは、北朝鮮が、核・ミサイルの開発を加速度的に進めているということだ。これを止めるには、資金、技術の流入を防ぐことが第一であり、国連安保理の追加制裁決議も全会一致で採択された。

 立命館大学の平井客員教授は、中国の厳しい態度が必要だとしたうえで、こう話す。

 「対話のための対話はダメだというが、制裁のための制裁もダメだと思う。何か制裁をかけていれば、何とかなる、ということではダメなわけで、制裁は対話に結びつかないと意味がない。制裁が北朝鮮を真剣な対話に引き摺りだす、そういうツールにならなければいけないのではないか」

 では、北朝鮮は、“対話”に進む可能性はあるのか?

 礒ざき准教授は、金正恩氏が、金正日時代同様に、軍を含めて権力を掌握しており、「政策のふり幅が大きく、スピードが速い」ことが特徴としたうえで、今後、大胆に進める可能性もあると見る。

 特に、北朝鮮の国営メディアでは、アメリカのトランプ大統領、韓国の文在寅大統領を「口汚く批判する論調」が抑制されているという。これも、一つのシグナルなのか。TBSの取材でも米朝の非公式協議の可能性が水面下で探られていることがわかっている。ただ、金正恩氏は、権力を継承してからの5年半、一切外遊をしていない。果たして、国際社会は、適切な圧力によって、対話に引き摺りだすことは可能だろうか。

萩原豊

萩原豊(TBS外信部デスク)

社会部、「報道特集」「筑紫哲也NEWS23」、ロンドン支局長、「NEWS23クロス」、社会部デスク、「NEWS23」番組プロデューサー・編集長などを経て現職。40か国以上を取材。