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TBS NEWS

2017年5月30日

韓国新政権は反日、親北に舵を切る? 日韓関係“意外に順調”

[ TBS政治部記者 久保雄一 ]

  • 「反日」警戒の韓国新政権、知日派ナンバー2に期待
  • 日韓首脳の初会談は7月のG20か
  • 文大統領は素直か?頑固か?

■にじむ期待

 「出だしは間違いなく順調だ」

 日韓外交に長く携わってきた外務省幹部は先週末、誕生3週間になろうとする韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領率いる新政権の立ち上がりを評価し、期待をにじませた。

 文在寅大統領自身には、対日強硬路線というイメージがつきまとう。その政権のナンバー2として大統領を支えることになる、国務総理候補の李洛淵(イ・ナギョン)全羅南道知事の存在は日本側の淡い期待の根拠の一部と言える。記者出身の元国会議員である李洛淵氏は、東京特派員の経験があり、日本語も流暢に操る「知日派」。韓日議員連盟副会長も務め、日本政界に広く人脈を持つ。

 文在寅氏自身には個人的な日本との繋がりがほとんどない。彼の“政治の師”盧武鉉元大統領(ノ・ムヒョン、故人)も対日強硬派だったが、その盧武鉉氏ですら、趣味のヨットを通じて日本との交流があった。その意味でも「知日派」国務総理が新政権に存在することには、それなりの意味があるだろう。

■「会う、会わない」から「シャトル外交復活」へ、そして「第3の道」?

 政権発足10日後の大統領特使の訪日も、政権内では概ね好意的な受け止めだった。日韓議連元会長で、こちらも「知日派」の文喜相(ムン・ヒサン)特使は大統領の親書を携えて来日。「小泉首相と盧武鉉大統領時代」に本格化した、首脳が定期的に日韓双方を行き来する「シャトル外交」の復活を提案した。

 この「シャトル外交」自体は、小泉元首相の靖国神社参拝や李明博(イ・ミョンバク)元大統領の竹島上陸をきっかけとした日韓関係の悪化の度に中断されている。「懸案があるたびに会う(李明博大統領)」というのもシャトル外交の精神であったはずだが、両国の首脳外交が、いかに時の政治状況に影響されやすいかの例とも言える。

 とはいえ、ひとまず文在寅政権は、朴槿恵前政権の混乱で一層停滞した感のある日韓外交を穏便にリセットしたいのだろう。特使訪問に先立つ安倍首相と文在寅大統領の電話会談でも、懸案の従軍慰安婦問題をめぐる日韓合意について、大統領は「韓国国民の大多数が受け容れられない」という表現を用いる一方、選挙戦で掲げてきた「合意の再交渉」については直接言及しなかった。合意を「最終的且つ不可逆的」と位置付ける日本にとって、初手から再交渉を求められれば新政権との関係構築は難しくなる。それを見越した巧妙な言い回しとも言えるだろう。

 韓国国内では合意をめぐる「第3の道」が取沙汰される。訪日前には特使もこれについて言及した。「合意の破棄」でも「再交渉」でもないとされる「第3の道」が何を意味するかはまだ判然としないが、日本、そして韓国国内に向けてのメッセージかもしれない。

■いつ会う?何を話す?

 「『会う、会わない』からスタートした前政権と比べ、首脳同士の会談日程を立てやすくなった」

 外務省幹部は新政権の姿勢についてこう話す。慰安婦問題の解決を対話の前提条件とした朴槿恵前大統領の頑なさに比べればまし、というわけだ。なお朴前大統領は訪日を果たさないまま罷免されている。

 その日韓両首脳の初の直接会談は、7月7日、8日にかけてドイツで行われるG20=主要20か国・地域による首脳会合に合わせて行われる見通しだ。また政権幹部は取材に対し、日本が議長国を務める日中韓サミットの開催も、早ければ7月にも行いたいとの考えを示す。

 日韓の首脳が会って話す最大のテーマは、やはり北朝鮮だろう。日韓関係も重要なテーマだが、それこそ懸案の日韓合意をめぐるブレイクスルーは考えにくい。外務省幹部は「今は協力できる北朝鮮問題に焦点を当てていくことしか思いつかない」と漏らす。

 文大統領は6月中旬に訪米し、トランプ大統領と初の首脳会談に臨む。日本にとって韓国がそうであるように、韓国にとっても日本は最優先の外交課題ではない。まずは立ち遅れた感のあるアメリカのトランプ政権との関係構築が急務だ。最大の貿易相手国である中国との関係改善も死活的問題だろう。

 こうした状況を踏まえれば日韓の協力は、まずは北朝鮮問題で、というのも妥当だろう。ただ、文在寅政権が北朝鮮との対話に踏み込みすぎれば問題が生じる。日米韓が連携して核・ミサイル問題で北朝鮮に対する圧力を強化していくシナリオに狂いが生じかねない。現状ですぐに対話に傾くことは想像できないが、外務省幹部は「今後、水面下の接触の可能性は十分ある」との警戒感を示している。

■「適切にマネージ」と「時間が必要」

 日本政府の説明によれば、電話首脳会談の際に安倍首相は「日韓合意を含む二国間関係を適切にマネージしていきたい」と述べたという。「マネージ」とは運営・管理を意味する。言うべきことは言うが、北朝鮮問題もある中で極端な関係悪化は避けたい、ということか。

 一方、韓国大統領府の説明はもっと詳細だ。文大統領は慰安婦問題に関連し「民間の領域で起きる問題に対して政府が出て解決するには限界がある。時間が必要だ」と説明した。ソウルの日本大使館や釜山の総領事館前に設置されたままの少女像の問題を念頭に置いた発言だろう。また大多数の国民が合意を受け入れられないという「情緒」を認めるよう求め、「双方共同で努力を」と呼びかけた。ただ過去の問題と北朝鮮の核・ミサイルに対する対応は「別個」とも述べたほか、未来志向も強調したという。

 「日本について知っていることは少ないが、知らないことは周りの意見を聞く」

 長く日韓外交に関わってきた韓国財界筋は、文在寅氏の外交姿勢を、こう評している。選挙中に比べれば幾分冷静なトーンにも感じられる発言ぶりからは、対日政策への準備もうかがえる。一方、その性格には「頑固」な一面があるとも言われ、外交をめぐる対立に繋がる可能性もある。政権発足からはまだ1か月も経っていない中で、どちらの個性が色濃くなるのかは見ていくしかないが、両国が協力できる分野を北朝鮮の問題だけでなく幅を広げていくことも、日韓双方が求められる手腕ではないだろうか。

久保雄一

久保雄一(TBS政治部記者)

社会部、政治部を経てソウル支局長。現在は外務省担当として朝鮮半島問題を専門としている。趣味はラグビーとマラソン(一応、サブフォー=フルマラソン4時間切り)。