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TBS NEWS

2017年5月26日

【緊急解説】若者はなぜテロに走るのか 英“自爆テロ”の根源にあるもの

[ TBS外信部デスク 萩原豊 ]

  • 自爆したのは、英国で生まれ育った22歳の移民2世
  • ロンドン同時多発テロの実行犯も移民2世
  • テロ対策法強化も・・・必要なことは?

■テロリストはリビア系移民2世

 英中部マンチェスターで、爆発テロ事件が起きた。8歳の少女を含む多くの若者の人生を奪った決して許されぬ行為だ。

 自爆したのは、22歳のサルマン・アベディ。英BBCなどによると、カダフィ体制のリビアから逃れ、英国に移住してきた両親のもと、1994年にマンチェスター南部で生まれた。“移民2世”である。彼は、マンチェスター市内の男子高校に通ったのち、2014年から2年ほど、サルフォード大学で経営学などを学んでいたが中退し、パン屋で働いていた。サッカー好きの青年で、特に、地元が本拠地のクラブ、マンチェスター・ユーナイテッドの大ファンだった。大学でも、特にトラブルはなかったという。元同級生は、「とても冗談が好きなやつだった」と同時に、「気が短かった」と話したという。

 そんな彼が、なぜテロを起こしたのか?

 事件の数日前まで、北アフリカのリビアにいたことがわかっている。リビアには、2011年、カダフィ政権が倒れた後、父親が帰国している。リビア治安当局は、父親と弟を拘束した。拘束前、父親は息子について、こう話している。

 「アベディは、いかなる組織にも属していなかった。『イスラム国』の思想を持っていなかったから(事件を知って)家族は少し混乱している」

 しかし、リビア当局は、アベディと弟は2人で『イスラム国』に接触していたとして、弟から「マンチェスター爆発テロの計画を事前に知っていた」という供述を得たとしている。背後に、過激派「イスラム国」の組織的な関与があったのか、捜査当局の解明が待たれる。

■ロンドン同時多発テロも移民2世

 欧州では、テロ事件が相次いでいるが、英国で、爆弾によるテロが起きたのは、12年前、2005年のロンドン同時多発テロ以来のことだ。このテロの実行犯4人も、英国で生まれ育った移民2世だった。そのうち2人は、パキスタンからの移民を両親に持ち、北部のビーストンという街に住んでいた。何が2人をテロリストに変えたのか、何らかの答えを探そうと、私は当時、アジア系の移民が多く暮らす、この街で取材にあたった。

 1人は、主犯格のモハメド・カーン、30歳。大学を卒業後、自宅近くの小学校で教員助手をしていた。事件当時、彼には1歳の娘と身重の妻がいた。幸せな家庭のはずだった。もう1人が、シザード・タンウィール、22歳。イギリスの代表的なスポーツ、クリケットを好んだ若者だったという。2人の友人や親戚を探し出し、話を聞いたが、「本当にいい人だった」「誰も、彼らがそんなことをするとは思わなかった」といった言葉ばかりだった。特に、タンウィールは、家庭が裕福で、赤い高級車に乗り、白人の友人も多かったという。貧しさを怒りに変えて、テロリストになる、というタイプでは決してなかった。また、2人はともに、特別に敬虔なイスラム教徒でもなかったという。

■過激化の心理的要因は

 では、何が彼らをテロへと駆り立てたのか。同じ移民2世の友人が推察した。

 「ひとつ、考えられるとすれば、彼(カーン)は、パレスチナとかイラクで行われている(イスラエル、アメリカの)やり方に憤っていた。基本的には、それが彼を狂わせてしまったんだと思う」

 さらに、別の友人は、「カーンは、イラク戦争を見てから、特に、信仰心が厚くなった」と証言した。

 つまり、“テロとの戦い”と高らかに宣言したイラク戦争が、皮肉にも新たなテロを生んでしまった可能性がある。その友人の言葉から、「過激化」への心理的な要因が見えた。

 「僕たちは、親の世代とは違うアイデンティティーを持っている。自分たちは、ここで生まれて西洋化している。確かに、僕たちは、ここで生まれ育った。でも絶対、自分たちのルーツは忘れないんだ」

 “アイデンティティー”。 自分が何者であるかの帰属認識だ。移民2世は、自らのルーツを、より強く求める傾向があると、テロ研究の第一人者、ハーバード大学のリチャードソン教授は解説した。

 「過激化する経緯としては、アイデンティティーの作り方に着目すると、自分たちのコミュニティーの友人たちとともに作るのではなく、行ったこともない国の、世界中のイスラム教徒の中に、自分の存在を探すなかで、過激派になっていくのです」

 さらに、イスラムに帰属意識を強く求めれば求める程、外側への反感を持ちやすいという。反感という面では、日常における、社会の偏見や差別なども、大きな影響を与えていたと見られている。

■対テロ立法の限界

 英国では、2000年にテロリズム法を制定。2001年には、米国で起きた同時多発テロ、さらに、2005年のロンドン同時多発テロなどを受けて、改正が重ねられ、強化されてきた。2006年には、「テロを称賛すること」も犯罪にあたると定められた。

 一方で、増え続ける移民・難民に対する排外的な感情が、英国内で高まっている。その象徴的な表れが、EU離脱を決めた国民投票だった。それは英国だけの問題ではない。移民排斥を訴える極右勢力を支持する市民が増え続けている。

 トランプ大統領は、マンチェスターのテロについて、「テロとの戦いに勝つことがどれだけ大事かがわかる。 我々は100%勝つ」と語った。テロを未然に防ぐために何が必要なのか。“善VS悪”の、単純な二元論にするのは、わかりやすく、容易い。しかし、“過激化”する若者たちの心の内を深く考えなければ、根源的な対策にならないだろう。

萩原豊

萩原豊(TBS外信部デスク)

社会部、「報道特集」「筑紫哲也NEWS23」、ロンドン支局長、「NEWS23クロス」、社会部デスク、「NEWS23」番組プロデューサー・編集長などを経て現職。40か国以上を取材。