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TBS NEWS

2017年5月19日

「海外に行きたくない」 ニッポンの若者―“内向き”志向

[ TBS外信部デスク 萩原豊 ]

  • 日本の海外留学生が大きく減少、なぜ?
  • 動き出した支援の取り組み
  • 海外留学に対する奨学金は、未来への投資

■日本の新入社員6割が海外転勤「イヤ」

 フランスの大統領選挙は、「開かれた社会」を訴える、超党派のマクロン氏が勝利して、ひとまず、“反グローバリゼーションのドミノ”が止まった形となった。だが、ルペン氏が、極右勢力としては史上最多となる票を獲得した。

 アメリカ、イギリスに続き、フランスでも、「グローバル化への強い反発は根深い」と分析されている。グローバル化に取り残された人々は、「忘れられた人々」と呼ばれ、移民排斥、保護貿易など「閉じた社会」を志向するようになっている。世界では、“内向き”が強まりつつある。

 “内向き”という点で、いくつか心配な日本の数字がある。新入社員を対象とした意識調査で、「海外で働きたくない」と答えた割合が、2001年に29%だったのが、2013年に58%にのぼったという。「外務省にも、海外に行きたくないと言っている若手職員もいる」という、笑えない笑い話も聞いたことがある。

 もう一つ、文部科学省によれば、日本から海外の大学に留学する学生が、2004年の8万3千人から年々減少し、5万5千人と、ピークの6割程度にまで落ち込んでいる。中国(38万1千人→76万1千人)や韓国(9万8千人→13万4千人)などと比較すると、グローバル化が進む世界で、日本が取り残され、後退している状況だ。

■問題はお金

 いったい、なぜ日本の若者たちは、“内向き”になっているのか?

 まず、相次ぐテロによる治安悪化、人種差別への不安などが、留学が敬遠される要因になっていると指摘される。また、制度の問題もある。「国際バカロレア」という世界的な教育プログラムがある。4段階のうち16歳から19歳向けのプログラムを2年間学び、一定の成績を収めると、世界の、およそ2000の大学への入学・受験資格を得ることができるというものだ。ところが、日本には、このプログラムを実施している学校は42校しかない。

 さらに、最大の障壁となっているのは、費用の問題だ。例えば、米・ハーバード大学は、学費だけで年間4万7千ドル、日本円にして、およそ530万円。名門大学ではなくとも、アメリカの州立、私立大学では、年間3万ドルから4万ドルの大学が多い。これに生活費が加われば、あまりにも負担が大きい。

 東京外国語大学で比較・国際教育学を専門とする岡田昭人教授は、TBSの取材に、「お金が問題で留学できないとなると、グローバル人材を育成する面から言うと非常に損失を被っている。奨学金を、国や自治体、民間の財団が数を増やし拡充しながら与えていく必要があると思う」と、生活費や交通費などもフルでカバーできる、給付型の奨学金制度の必要性を訴えている。

■人材不足への危機感募る

 こうした日本の状況を変えようと、少しずつ動きが出ている。

 「日本の若者たちを、できるだけ若いうちに、海外に出してあげたいと思うのです」

 トビタテ!留学JAPANのプロジェクトディレクター・船橋力氏の言葉は力強い。このプロジェクトは、民間企業からの寄附金で、留学する大学生や高校生に、返済不要の月額奨学金(先進国で16万円)や留学準備金などを支給するというもの。文部科学省で初となる官民協働で始まったユニークな取り組みだ。開始わずか3年で、企業200社から116億円以上の寄附金を集め、3000人を超える留学生を世界各国に送り出している。

 商社を経て、教育事業を立ち上げていた船橋氏は、世界経済フォーラム、通称「ダボス会議」のヤング・グローバル・リーダーに選ばれ、2009年から会議に参加していた。そこで、世界から集まった同世代のリーダーたちに圧倒されたという。

 「議論に参加できなかったんです。英語力、教養、情報量が全く違う。最後は、“聞き上手”とほめられました(笑)」

 この経験から、日本の若者たちに対する留学支援の必要性を、当時の文科大臣に直訴したことが、プロジェクト発足のきっかけだったという。

 5月のある土曜日。外は強い雨が降りしきるなか、霞が関にあるビルの講堂に多くの大学生が入っていった。仕切られたブースには、面接官が待つ。今期の採用予定数500人に対し、応募1752人のうち、書類選考を通過した800人の大学生が面接選考に臨む。個人面接のあとは、6人のグループディスカッション。1人4分間で、自分の留学計画をプレゼンする。男子も女子も、写真や絵で工夫された、手作りの資料を示しながら、熱く語る。

 「ニカラグアでスポーツを通じた教育支援を学びたい」
 「イタリアで創作ダンスを学びたい」
 「フィリピンでフェアトレードを学びたい」
 「アメリカで土壌汚染を研究したい」

 面接内容のため、ここで詳しく記すことはできないが、その国で、何を学びたいのか、学んだ後、どう将来の仕事に生かすのか、などについて、目的意識の高さを感じる留学計画が数多く並んだ。プレゼンのあと、多くのグループで活発な議論が交わされていた。“選考基準は、熱意×好奇心×独自性”。これまでの国費留学生は、成績優秀者を対象としていたが、このプロジェクトでは、成績は問われない。留学先を自ら探し、計画を立てる。留学先は大学に限らず、NGO団体や企業などのインターンでも認められる。

 「この門戸の広さは、税金ではなく、民間企業の寄附金だからこそ」と、船橋氏は説明する。プロジェクトでは、2020年までに1万人の大学生、高校生を支援する目標を掲げている。この他にも、民間団体などで返済不要の奨学金を支給するところも徐々に増えてきた。

 グローバル人材が足りない、という産官学の危機感が、こうした動きを後押ししている。ただ、奨学金で費用の一部をカバーできても、家庭の負担はやはり重い。そもそも、奨学金を得られる学生は、決して多くはない。奨学金を得られなければ、よほど豊かな家庭でない限り、特に欧米への留学は断念せざるを得ないのが現実だ。世界の“グローバル化”に、後戻りはない。ニッポンの若者たちが、「忘れられた人々」とならないよう、未来への投資として、留学奨学金の大幅拡充を検討する時期ではないだろうか。

萩原豊

萩原豊(TBS外信部デスク)

社会部、「報道特集」「筑紫哲也NEWS23」、ロンドン支局長、「NEWS23クロス」、社会部デスク、「NEWS23」番組プロデューサー・編集長などを経て現職。40か国以上を取材。