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TBS NEWS

2017年5月8日

“さりげない人工知能”の時代

[ TBS科学担当解説委員 齋藤泉 ]

  • AI=人工知能は人間を超えるべきか?
  • 目指すのは“さりげない人工知能”
  • ビッグデータとの融合で生活が変わる

<人工知能は人間を超えるべきか?>

 今、時代のキーワードの1つになっているのがAI=人工知能だ。最近では、人工知能が将棋や囲碁の対戦で人間に挑み、名人級のプロ棋士に勝つなど、互角以上の闘いを繰り広げている。人工知能というと、「人間に代わる」あるいは「人間を超える存在」として取り上げられるケースが多い。しかし、その人工知能を作り出しているのは他でもない人間であり、本来の目的は、私たちの生活を豊かにする手助けをしてもらうためのテクノロジーである。

 1968年に公開されたアメリカのSF映画「2001年宇宙の旅」の中で「HAL(ハル)」と呼ばれる人工知能が登場する。宇宙船の内部装置を制御する「HAL」は自らの異常を察知されて機能停止させようとする乗組員と闘うというシーンがある。フィクションとは言え、あり得ないこともないストーリーだ。ちなみに「HAL」の名称は、世界的なコンピュータ会社のIBM社のアルファベットを1文字ずつ前に戻して付けたとか。

 そのIBM社が現在、開発している人工知能が「ワトソン」だ。他にマイクロソフト社の「Tay」(テイ)、グーグル社参加のディープマインド社の「DQN」(ディープQネットワーク)、日本ユニシスの「Rinza」(リンザ)など、世界のIT企業は、それぞれに特徴を持った人工知能の開発にしのぎを削っている。

<目指すは“さりげない人工知能”>

 日本ユニシスが去年12月に発表した「Rinza」が目指すものは何なのか。開発を手がけた日本ユニシス総合技術研究所長の羽田昭裕氏はこう話す。

 「誰もが使える人工知能というのがコンセプト。みんなが輪になって座るということで『輪座』という名前にした。人工知能がユビキタス(変幻自在)というか、あらゆるところに存在し、しかも見えない、さりげない形で存在するようにするのにはどうしたらいいのか。“さりげない人工知能”を提供していく第一歩がRinzaだと思っています」

 さりげなく人間に寄り添い、サポートするのが人工知能の役割だと羽田氏は述べる。将棋や囲碁で人間を打ち負かす最近の人工知能について、羽田氏はこう斬り捨てる。

 「囲碁の名人に勝ったとか、クイズでチャンピオンになったとか、東大に入れないけど、ほとんどの私立大学にはA判定を受けるとか、人の気持ちが読めるとか、例えばそういうことを言う人がいたら、その人は知性があるとは思わない」

 優秀さを強調する人工知能には知性があるとは言えない、というのだ。人工知能はあくまで“さりげない存在”であるべきだという。

<行き詰った会議に助け舟>

 日本ユニシスは“さりげない人工知能”の他に“空気の読める人工知能”の開発も進めている。東京・中央区の京橋駅近くにオフィス家具メーカー・イトーキのショールームを兼ねたオフィスがある。その一角に人工知能が会議の進行をサポートしてくれるという空間がある。人工知能が会議の音声をすべて認識して、会話から出てきたキーワードを拾い上げ、ウェブデータなどの補足情報やSNSで発信された様々な意見を瞬時に提示してくれる。会議が行き詰った時の助け船になるという。まさに人工知能とビッグデータが結びついた次世代のシステムだ。

 イトーキといえば、私の世代では“学習机”というイメージがある。そのイトーキが人工知能を取り入れようとしている意図は何なのか。イトーキの先端研究統括部長、大橋一広氏はこう話す。

 「我々は昨今のデジタルの普及をオフィス作りにどう活かしていくかということに取り組んできました。パーソナルの検索はネットやSNSで発展しているが、オフィスの中で、どうやってデジタルと空間が融合していくかということを取り組んでいく中でプロジェクトがスタートしました」

 大橋氏によれば、イトーキの役割はオフィスでのチームワークをサポートすること。そこで目を付けたのが会議室という空間だという。日本ユニシスとコラボすることで、ICT=情報通信技術やクラウド技術を活用したオフィス空間作りを目指していくという。

 人工知能とビッグデータの融合で私たちの生活は大きく変わる可能性がある。今後、人工知能はさりげなく生活の中に広がっていくだろう。ただ、人工知能が社会を変えるのではない。あくまで主役は人間でなくてはならないと思う。テクノロジーは決して万能ではない。時には人間の予想をはるかに超えて暴走し、制御不可能な事態に陥ることを私たちは身をもって体験しているからだ。

齋藤泉

齋藤泉(TBS科学担当解説委員)

経産省、文科省、外務省など10の省庁を担当。先端技術、ロボット、次世代エネルギー、情報通信など取材。東日本大震災後は福島第一原発の廃炉の現場取材を継続。趣味はジャズと映画鑑賞。合気道二段。