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TBS NEWS

2017年5月1日

遺族に一刻も早く説明を、「冬山全面禁止」は危険だ

[ TBS報道局社会部長 武石浩明 ]

  • 実際に登って実感した「典型的な雪崩地形」
  • 事故の原因がヒューマンエラーなら、一刻も早く遺族が納得できる説明を
  • 全国アンケートで見えた問題点、「冬山登山の全面禁止」は危険だ

 栃木県那須町で高校生ら8人が死亡した雪崩事故から1か月が過ぎた。事故現場への立ち入り許可が得られたので、当時、生存者の救助にあたった那須山岳救助隊の渡部逸郎副隊長に同行してもらい、高校生が登ったとみられるルートを登ってみた。出だしから思ったより急な斜面だ。高校生には、きついラッセルだったに違いない。

 尾根上に出て見上げると、雪崩が起きた斜面が広がっていた。「天狗の鼻」という岩の下に広がる幅数十メートルの斜面だが、木がほとんど生えていない。一部、雪が解けて竹やぶが露出していた。雪崩で雪が落ちたため、周囲より早く竹が露出したのだろうか。その斜面を登ってみた。傾斜およそ35度。山登りをする人ならわかると思うが「滑落停止訓練」ができるくらいの斜面だ。登山経験が浅い人だと、降りるときに怖いと感じるだろう。

 日本雪崩ネットワークの出川あずさ理事によると、雪崩が起きる原因は、気象などいくつかあるが、一番重要なのは「地形」だという。那須の山を知り尽くす渡部副隊長は、事故が起きた現場が「典型的な雪崩地形」だという。降雪直後など、条件が悪いときなら、下から登る振動でも雪崩を誘発する危険性があると指摘する。

 その雪崩地形の延長線上、雪崩が下ったと思われる先に、高校生らが埋没していた場所があった。救出のために掘り出した跡が、3か所ほど丸い穴のように残っていて、警察が近くの木に目印の白いビニールテープを巻いていた。今の季節は1日10センチ位のスピードで雪が溶けていくという。雪がなくなれば、雪の下の竹が立ち上がり、掘り出した跡も消えてしまうだろう。

 渡部副隊長によると、救助に駆けつけた当時は、雪の中から体の一部が見えている人も何人かいたという。なぜ助けてあげられなかったのか。失われた若い命を思い、胸が締め付けられた。

 栃木県警は特別捜査班を設置。68人態勢で捜査をしていて、のべ200人(1人に複数回聞くと複数の人数にカウント)に事情聴取するなど、業務上過失致死傷容疑で捜査を進めているが、詳細は明らかにしていない。また、栃木県教育委員会が設置した検証委員会が4月16日に初会合を開いたが、誰が具体的な訓練内容やルートを決めたのかなどは非公開で検証していて、こちらも詳細はわからない。

 一方、私たちの取材で、事故の直前に高校生を引率していた教諭が、「天狗の鼻を目指していた」と話していることがわかった。まさに、「典型的な雪崩地形」に突っ込んでいく形だったわけである。亡くなった高校生の1人、鏑木悠輔さんの父・浩之さんが私たちに手記を寄せてくれた。

 浩之さんは「最終的に誰があのルートで訓練を行うと提案して誰がそれを許可したのか。詳しいやりとりについて私たちには何の説明もない。責任の所在が曖昧で私たちには納得できない」としたうえで、「責任逃れともとれる発言はせず真実を語って頂き、もし判断ミスや過失があったなら人として道理に従って心から謝罪を」してもらいたいとしている。

 遺族が一番知りたいのは、そのときに何があったのかだ。こうしたケースでは、時間が経てば経つほど、不信感は増していく。「天狗の鼻」まで登る判断をした教諭の責任は極めて重い。ヒューマンエラーであるならばなおのこと、できるだけ早く、今話せる範囲でもいいので、遺族に誠意を持って説明をすべきだ。

 今回の雪崩事故を受けて、高校山岳部はどのような方向に進むのだろうか。JNNでは全国の教育委員会にアンケート調査を行い、山形県以外の46都道府県から回答が得られた。事故の前から、スポーツ庁は冬山登山を「原則禁止」とする通知を出しているが、「禁止」や「全面禁止」としたのが、検討中を含めると11都県に上った。

 冬山登山を全面禁止にした場合、“春山”や“秋山”で吹雪などの悪天候に遭遇したときに、身を守れるのだろうか。「冬山は原則禁止だから、雪崩の危険も学ぶ必要がない」と判断しているとしたら、心配である。見過ごされがちだが、今回の事故は「登山訓練の講習中」だったのである。その講習に雪崩リスクを学ぶプログラムが含まれていたら事故は起きなかったのではないか、との思いもめぐる。

 一方、「原則禁止」や「全面禁止の予定はない」とした道府県のうち、岡山県は「雪のある山での活動を一律に禁止してしまうと、雪に対処する技術が習得できない、かえって危機回避能力が身につかなくなってしまうといったことも考えられることから、今以上に安全の確保、安全性の確認を徹底した上で実施することが望ましい」としている。

 「冬山」と言っても全てが危険なわけではなく、安全に上れる山やルートはたくさんあるのだ。岡山県のように、安全なところで雪への対処方法を経験し、リスクを学ぶことこそ重要なのではないか。若い命を守るためにも、間違った方向に進まないよう祈りたい。

<全国の教育委員会へのアンケート結果>

【Q.春休み中の合宿を中止した学校】

宮城(途中下山1校、中止1校)、福島(途中下山1校、中止3校)、栃木(中止3校)、埼玉・山梨・岐阜(中止1校)、滋賀(日帰り登山を3校中止)

【Q.春休み中の合宿を雪がない山に変更した学校】

茨城(1校)、新潟(登山大会を4合目付近までに変更)、滋賀(日帰り登山1校)

【Q.高校山岳部の今後の合宿について、冬山登山を全面禁止にする予定はあるか】

「禁止、または全面禁止」・・・秋田・福島・栃木・群馬・東京・山梨(検討中)・富山・石川・福井・愛知・大分

「原則禁止、または全面禁止の予定なし」・・・北海道・青森・岩手・宮城・茨城・埼玉・千葉・長野・静岡・京都・岡山・広島・山口・徳島・香川・愛媛・高知・福岡・佐賀・長崎・熊本・宮崎・鹿児島・沖縄

【Q.雪崩などの危険への対処方法など、引率者の安全教育を行う予定はあるか】

「予定なし」・・・北海道・秋田・千葉・東京・富山・岐阜・愛知・大阪・奈良・和歌山・鳥取・長崎・熊本・大分・沖縄

「すでに研修会や講習会実施(雪崩についての講習が含まれているかは不明)」・・・青森・宮城・福島・茨城・栃木・群馬・埼玉・山梨・石川・福井・静岡・三重・滋賀・岡山・山口・徳島・香川・高知・佐賀・長崎・宮崎・鹿児島

「新たに安全講習を予定または検討」・・・岩手・栃木・群馬・神奈川・長野・京都・兵庫・愛媛・福岡

武石浩明

武石浩明(TBS報道局社会部長)

TBS報道局社会部長。社会部では警視庁記者クラブ、司法記者クラブキャップ、デスクを担当。「ニュースの森」ディレクター、「Nスタ」「みのもんたの朝ズバッ!」チーフプロデューサーなどの番組を担当。

立教大学山岳部OB、現在、山岳部コーチ。ヒマラヤのチョモロンゾ(7816m)を中国側から初登頂。ナンダコート(6867m)登頂など。