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TBS NEWS

2017年4月18日

ベテラン刑事との一問一答~GPS捜査やめて治安はどうなる?

[ TBS記者 竹内明 ]

  • 令状なきGPS捜査に最高裁が違法判決を下して一か月、捜査員の本音を探る。
  • 「GPS捜査やめても影響なし」警察幹部は自信を示す。背景に検挙率上昇。
  • 「GPSは刑事十人分に匹敵。検挙率下がる」ベテラン刑事は危機感を募らせている。

<GPS捜査は断念?>

 「GPS捜査はプライバシーを侵害しうるもので、令状がなければ行うことができない」、先月15日、最高裁が下した判決に、捜査現場には激震が走った。捜査対象の車に令状なしにGPSを装着するのは違法で、立法措置を講じてから捜査に使うべきという内容だった。判決から一か月、警察はどう対応するのか。警察幹部(以下幹部)に聞いてみた。

幹部)GPS捜査を合法化する刑事訴訟法改正は断念する方向だ。法改正をしようとすれば日弁連は引き換えに取り調べ可視化の範囲拡大を求めてくる。失うものが大きい。

竹内)GPS捜査を断念したら検挙率が落ちるのか?

幹部)GPSが問題になり始めたここ数年は、裁判に影響するので使用を控えていた。それでも刑法犯も減り、検挙率が上がっているのだから、全面禁止にしても影響は少ない。

竹内)法改正されれば、捜査の合法的な武器になるのでは?

幹部)GPSが有効なのは窃盗事件、特に自動車泥棒などの組織窃盗だ。窃盗団は盗んだ車で移動するから、どの車を使うか分からない。法改正で令状とってGPS装着ができるようになったとしても、事前に車を特定して、裁判所に伝えることは無理だ。

竹内)GPSが制度化されれば、使えない捜査手法になると?

幹部)そういうこと。GPSを使う捜査手法は発覚した時点で役目を終えたのですよ。

<GPSなくても検挙可能>

 このように警察幹部はGPS捜査をやめても治安は守られると自信を示す。根拠は去年の刑法犯の認知件数が戦後初めて100万件を下回り、検挙率も三年連続で上昇しているからだ。GPS捜査が裁判で問題になった一昨年以降、警視庁などが使用を控えても検挙率が落ちなかったことが大きな自信に繋がっている。警察幹部は最高裁の判決理由に書かれたある一文に光明を見出している。

 『(GPS捜査は)個人の所持品に秘かに装着することによって行う点において、公道上の所在を肉眼で把握したりカメラで撮影したりする手法と異なり、公権力による私的領域への侵入を伴う』

 最高裁判決のこの部分を読むと、「秘かに」「所持品に装着」することは否定している。その一方で、防犯カメラ、Nシステム(自動ナンバー読取装置)、隠し撮りといった公道上での捜査手法にお墨付きを与えている、と警察幹部は指摘する。

 「Nシステムや防犯カメラで捜査対象者の行動パターンを分析しておけば、移動ルートは予測できる。途中で尾行を取りやめて、犯行場所に先回りすることが可能だ」(警察幹部)

<現場の刑事に聞いてみた>

 このように警察幹部は、「GPS捜査を全面禁止しても問題ない」と言うのだが、捜査現場の刑事たちはどう考えているのか。私はある刑事を酒席に連れ出し本音を探った。

竹内)最高裁判決の影響はどうです?

刑事)検挙率は下がるよ。捜査の厳しい現実を理解していない判断だ。

竹内)でも、ここ数年はGPSの使用は控えていたのでしょう?

刑事)表向きはね。

竹内)どういうこと?

刑事)組織としては、控えていた。でも、俺たちはホシを捕まえなきゃいけない。被害者に絶対に捕まえてくれといわれれば、刑事は熱くなる。だから最近もGPS使った。

竹内)上司にも無許可でやるのですか?

刑事)上に知らせれば迷惑がかかるし、許可が出ない。リスクの高い捜査手法をとるときには、上に報告しないで、個人の責任でやる。オヤジ(署長)に迷惑をかけられない。これは阿吽の呼吸ってやつだ。

竹内)GPSは警察の経費で買うのですか?

刑事)そんなの経費で落ちるわけない。秋葉原に行って、自分のポケットマネーで買うんだよ。いまそこらの探偵だって使うんだぜ。

竹内)今後どうするのですか?

刑事)これまではバレたとしても厳重注意だっただろうけど、最高裁判決が出た以上、バレたら懲戒免職だ。首を賭けてGPSを使おうっていう刑事はいない。俺も使わない。

竹内)だから検挙率が下がると?

刑事)なんでGPSを使うか、一番の理由が分かるか?人員不足なんだよ。尾行するときには複数の刑事が入れ替わりながら追いかける。GPSは刑事十人分に匹敵するくらい合理的なんだ。これを完全にやめれば検挙率は下がる。

竹内)幹部は「影響は少ない」と言うけど。

刑事)幹部たちは、非公式にどれだけGPSが使われたのか知らないからだよ。現場の刑事がこっそりGPSを使って、検挙に結び付いたケースは結構あると思う。今後大変なのは地方の警察だよ。人手が少ない地方の県警は、影響が大きいはずだ。

 科学技術の進歩とともに、今後も新たな行動監視の手法は次々と生み出されるだろう。捜査対象の自宅玄関先に発光物質を撒いて、これを靴で踏ませることによって足跡追尾する手法なども捜査によく使われている。GPSと同様、今後、議論となるだろう。治安か、プライバシーか、どちらを優先させるかの二者択一は、民主主義社会では解決困難な議論だ。だが、プライバシーを守りながら、犯罪者を跋扈させない方法を国民全体で真剣に考えるときだろう。

竹内明

竹内明(TBS記者)

社会部、政治部、NY特派員、ニュースキャスターなどをやってきました。諜報、テロ、外交、政治汚職などが専門分野。ノンフィクションやスパイ小説も書いてます。5冊目執筆中。