国際・世界情勢コラム「インテリジェンスEYE」

執筆者

藤村幹雄(ジャーナリスト)

最新の記事内容

トヨタ叩きの舞台裏

2010.3.15


 全米の議会やメディアで吹き荒れたトヨタ・バッシングは、豊田章男社長の証言でヤマを越し、トヨタ自動車は当面、最悪の事態を何とか乗り切った。

 米自動車業界誌オートモーティブ・ニューズによれば、トヨタの3月の米国での自動車販売は、ローン金利のゼロ%などの販促効果で前年同期比30%以上増加する見通し。大量リコール問題の影響で、1月は同16%、2月は同8%の落ち込みだっただけに、信頼を回復しつつある。

 「米国の高速道路を走ると、故障した車が側道に放置され、交通警察がワッペンを張っている。よく見ると、故障車の大半が米国車で日本車はほとんどない。日本車は壊れにくいという神話が今回のトヨタ叩きで揺らぐことはない」(米自動車業界筋)

 米ABCテレビは2月、トヨタ車の急加速の原因が電子制御装置の欠陥にあることを立証したとするギルバート南イリノイ大学教授の実験を大々的に報道したが、ABCは最近、映像を操作した作為的な報道だったことを認め、謝罪した。
 
 ハイブリッド車「プリウス」のアクセルが異常加速したり、スピード制御不能に陥るとのクレームについても、ニューヨーク・タイムズ紙は「ブレーキとアクセルの踏み違えによる人的要素だ」とする米専門家の主張を伝えた。急加速現象は他社の車でも頻繁に報告されていることも判明した。

 米メディアは次第に冷静になりつつあるが、これまでの異常なトヨタ叩きは、米政府、議会、業界が意図的に仕掛けた「スピン・サイクル」と呼ばれるメディア操作の色彩が強い。

 昨年、米フォード社も速度制御装置の欠陥で同様の大量リコールに追い込まれたが、ほとんど問題視されなかった。トヨタの対応にも問題があったが、「リコールされたトヨタ車の運転を止めるべきだ」(ラフード運輸長官)といった不規則発言は、政権までトヨタ叩きに加担した印象を与えた。

 カナダの新聞が「トヨタは生贄」と報じたように、意図的なトヨタ叩きの背景には、世界一となったトヨタを凋落させることで、国産メーカーを再浮上させ、雇用拡大や景気回復、11月の中間選挙勝利につなげたいとするオバマ政権の冷徹な思惑が透けて見える。

 米国の広告代理店幹部は、「これがフォルクスワーゲンだったら、これほど大問題にならなかっただろう」とコメントしていた。米国市場を席巻する日本車への違和感が背景にあり、原爆投下問題にも絡むアジアへの偏見という古くて新しい問題も垣間見えた。

 日米関係筋は「ブッシュ前大統領なら、これほどのトヨタ叩きは自制させていただろう」と指摘した。米民主党政権の強力な後ろ盾の一つは全米自動車労組であることを、オバマファンの日本のマスコミも想起すべきだろう。