米のパリ協定離脱で変わる「世界の軸」

●トランプ大統領決断の衝撃
●麻生氏「その程度の国」、実は京都議定書も
●EUと中国がリーダーに?日本は「ナゾ」

■アメリカ離脱の衝撃

 アメリカのプルイット環境保護局(EPA)長官は、前から決まっていた予定があるとして、会議の初日、早々に帰国した。G7=先進7か国環境相会合でのことだ。説得は失敗に終わった。

 トランプ大統領の「離脱」表明は、選挙期間中の公約だったとは言え、世界に衝撃を与えた。地球温暖化対策の国際的な枠組み「パリ協定」には、196か国と地域が参加する。そう説明するよりも、シリアとニカラグアだけが参加していない、と言った方がわかりやすいかもしれない。しかもシリアは、7年にわたる内戦中でそれどころではない。ニカラグアは、地球温暖化の被害を受ける可能性が高く、「パリ協定」よりも効果のある対策を求め、参加していないとされる。つまり、温室効果ガス排出量2位のアメリカだけが、この枠組みに反して「離脱する」ことになる。

 「残念、という言葉では足りない、怒りを感じます」

 地球温暖化防止のために、調査研究や政策提言などを行っているNGO団体、気候ネットワークの平田仁子理事は、こう憤りを示したうえで、このタイミングでの表明は、二つの点で、より影響が大きいと語った。一つは、パリ協定では「世界の平均気温の上昇幅を産業革命前と比べ2度を十分に下回る」ことなどを目標に掲げている。これは「意欲的な目標」と言えるが、現段階で、各国が設定している目標を積み重ねても足りないとされる。このため、これから各国のゴールを引き上げようという重要な時期だった。離脱表明によって、その意欲が削がれるのではないか。そして、もう一つは、途上国に対して、先進国から、温暖化対策のための資金や技術の供与が始まっているが、この取り組みを加速しようという時期だった。これも停滞するのではないかという懸念があるという。

 そもそも、パリ協定の採択に向けて主導してきたのは、アメリカのオバマ大統領だった。これに、排出量1位の中国も途上国をけん引する形で、ようやく合意に至った協定だけに、アメリカ自らが離脱する衝撃は、あまりに大きい。

■“アメリカよ、またか”

 「その程度の国だということですよ」

 麻生財務相は、アメリカを痛烈に批判した。第一次世界大戦後に、当時のアメリカのウィルソン大統領が提唱し、設立された「国際連盟」に、結局、アメリカが加盟しなかった歴史を踏まえての発言だった。実は、パリ協定の前の枠組みである、「京都議定書」でも、アメリカは同じような行動をとっている。

 もう二十年前になる。1997年12月に、京都で開催されたCOP3=気候変動枠組条約第3回締約国会議、いわゆる「京都会議」に、世界各国の代表ら約9800人が集結した。当時の日本史上最大の国際会議。私は、ドイツのボンで開催された事前の準備会合から、この枠組みの協議過程を取材していた。

 10日間の日程だったが、協議は、かなり難航していた。連日、先進国と途上国が激しく対立。またアメリカは、「削減率0%」と現状維持を主張したため、EU、日本などの間でも意見の隔たりが大きく、連日、未明におよぶ非公式会合も続いた。だが、最終日前日になっても、合意の見通しは立っていなかった。

 「もう無理かもしれない」

 そんな空気が漂っていた頃、突然、交渉が大きく動きだしたのは、アメリカから、ある人物が京都に入ってからだった。のちに、ノーベル平和賞を受賞するアル・ゴア副大統領である。会議場に颯爽と登場した姿をよく覚えている。ゴア副大統領は、アメリカは柔軟な対応の用意があるとの声明を出すなど、精力的に交渉に臨んだ。最終日は、夜を徹する議論を経て、翌11日、ついに議定書が採択された。まさに“ゴアがまとめ上げた議定書”だった。

 ところが、2001年、ブッシュ政権になったアメリカは、経済への制約を嫌い、京都議定書の枠組みを離脱した。当時の世界最大の排出国が抜けたことは、大打撃だった。京都議定書もまた、交渉をまとめたアメリカが、後に参加しないという道を歩んでいたのである。だからこそ、パリ協定離脱について、関係者の間には、“アメリカよ、またか”という思いがある。

■EU・中国がリードか・・・変わる世界の軸

 アメリカの離脱によって、地球温暖化対策は崩壊してしまうのか?

 「一時的な停滞感があっても、世界の流れは変わらないのではないか」

 早稲田大学政治経済学術院・環境経済経営研究所の有村俊秀所長は、そう予見する。アメリカでは、すでに州政府や市レベルの取り組みが進展しており、ビジネスの面でも“脱石炭化”の流れは確たるものがあるという。温暖化対策にある「経済合理性」も、もはや後戻りしない。

 「国際的合意であり、われわれは国際的な責任を担う」

 アメリカの離脱表明を受けて、中国の李克強首相は、こう語った。中国は、温暖化対策が経済発展に寄与すると見て、政策を推進している。例えば、2015年に世界で設置された自然エネルギーの約40%が中国であり、2016年に、中国は100か所以上の石炭火力発電所計画を停止した一方、ソーラーパネル、サッカー場3面分を1時間毎に設置しているという計算もある。この背景には、もちろん、大気汚染対策の側面がある。だからこそ、自然エネルギー開発は今後も進められると見ることもできる。

 自ら世界のリーダー役を降りたアメリカに代わり、今後は、EUと中国が、この問題を主導していくだろう。さらに、前出の平田理事によると、中国は途上国の位置づけだが、“南南支援”と言われる途上国同士の支援に乗り出している。特に、東南アジア、アフリカ、島嶼国などに資金、技術を提供し、影響力を強めているという。

 それにしても、およそ130か国を集めた一帯一路フォーラムでは、トランプ大統領が唱える国益第一の「保護貿易」に対して、「自由貿易」の重要性を訴え、そして、今回は、地球温暖化を主導して取り組む中国。人権問題では深刻な社会的課題があるが、後に振り返る時に、世界の「軸」が中国に移った“転換点”になるかもしれない。

■日本の方向は「ナゾ」

 前述した、パリ協定を「弱すぎる」として参加していないニカラグアは、2020年までに、国内の90%を再生可能エネルギーに変える、という極めて意欲的な目標を立てている。

 では、日本はどうか?実は、東日本大震災以降、火力発電所の新設計画が停止されるどころか、逆に急増しているのだ。気候ネットワークによると、把握されているだけで、全国47か所にのぼるという。なかには、被災地の仙台に、石炭火力発電所を建設しようとしているケースもある。計画を進めているのが、関西電力の子会社、しかも電力の供給先が首都圏ということもあって、地元住民の反発も強い。

 「世界の他国は、どんどん石炭、火力をやめようとしている。それなのに、日本は逆。これは、ナゾです」

 国際環境NGOグリーンピースのジェニファー・モーガン事務局長は、来日した際に、世界の動向から乖離する日本のエネルギー政策を辛辣に批判した。

 「パリ協定復帰に向けて、アメリカに働きかけをするべきでしょう。中国での排出抑制にも協力できる。欧州と並んで、リーダーシップをとるよう期待したいですね」

 有村所長の言う通り、地球温暖化対策という分野でこそ、日本が世界のリーダーになることはできないだろうか。

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更新日時:6月25日 11時2分

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