北朝鮮工作員の極秘潜入作戦「日本は簡単だ」

●深夜に番号読み上げ。乱数放送で工作員に極秘指令か?
●「新潟に煙草を買いに来た」工作員にとって日本は「天国」だった。
●暗殺、爆破。特殊訓練を受けた工作員のテロに備えるべき

 故金日成主席の105回目の生誕記念日(太陽節)の前日にあたる14日午前1時15分、北朝鮮の国外向けラジオ、平壌放送が奇妙な放送を行った。

 「今から27号探査隊員のための遠隔教育大学情報技術基礎復習課題をお伝えします」

 「823ページ69番、467ページ92番、957ページ100番・・・」

 女性アナウンサーが10分間にわたって数字を読み上げるだけ。これは海外の潜入工作員に向けて指令を出す乱数放送だ。この乱数放送は2000年から休止されていたが、去年6月に16年ぶりに再開されていた。米国との対立が緊張状態にあるだけに、今回の放送は、日本や韓国に潜入している工作員に破壊工作を指示するものではないかとの観測が一部で出た。

<日本は工作員天国>

 「日本に北朝鮮工作員はいるのか?」とよく質問を受ける。私が取材した限り、日本にはたくさんの北朝鮮工作員がいて、しかも彼らにとって天国のような国なのだそうだ。北朝鮮の工作員たちはどうやって潜入、脱出するのだろう。彼らは日本海沿岸部や九州南部沿岸に接近、沖合で陸上の補助工作員と連絡を取り合い、半潜水艇、水中スクーター、ゴムボートなどで上陸する。脱出するときはこの逆の手順だ。元工作員によると、潜入、脱出は太陰暦の月末と月初め、つまり新月の夜に暗闇にまぎれて行なわれるという。

 私は複数の元北朝鮮工作員を直接取材したことがある。ある戦闘工作員は脱出の手順についてこう明かした。

 「脱出の丁度一か月前の新月の夜、現場を下見して場所を決め、脱出する仲間と集まってリハーサルをします。現地の警戒態勢、目印、軍事施設の動向を確認して報告すると、本国は詳細な接線(合流)の場所・時間を指示してくるのです」

 こうした作戦の連絡には、前述の暗号放送が使われたという。

 「本国からの指令はラジオ電波で暗号が飛んできました。読み上げられた5ケタの数字はメモすることを禁じられ、頭の中に叩き込んで、乱数表で言葉に変換し、解読したのです」

 日本への潜入、脱出は簡単であることは、工作機関の中でも知られていたと、この元工作員は話す。

 「韓国への潜入は警戒が厳しく、命がけでした。私は発見されて銃撃戦になり、拘束されました。ほかの仲間は全員射殺です。日本は在日朝鮮人の手助けもあるし、警戒も甘いから簡単です。撃たれることはありませんしね」

 ある在日朝鮮人も日本の無警戒ぶりを指摘する。

 「本国の工作員たちは『新潟に煙草を買いに来た』と言って気楽に出入りしていました。まるで旅行気分です。捕まっても密入国で国外追放されるだけ。日本は工作員にとって天国ですよ」

<日本警察の対策は?>

 日本の警察は北朝鮮工作員の上陸にどう対応しているのか。重要なのは「ナミ」と呼ばれる工作機関の暗号通信である。電波には3つある。「A1」はモールス信号、「A2」が中波のラジオで傍受するモールス信号、「A3」が先に述べた乱数放送だ。

 警察庁警備局外事課にある「八係」という秘密組織が二十四時間体制で暗号通信を傍受している。東京日野市、北海道北広島、宮城県仙台市、千葉県館山市、愛知県小牧市など日本列島の10か所以上に電波傍受のための警察の通信所が存在する。ここで工作母船と工作員の交信をキャッチし、電波の強さや方角から、工作母船の位置を特定するのだ。

 1999年に大阪府和泉市の信太山の通信所が、能登半島沖の北朝鮮工作船の位置を特定し、海上自衛隊に海上警備行動が発令されたが、結局は取り逃してしまった。ましてや上陸する工作員を捕まえることが出来たのは、僅かな例しかない。

 元工作員は語る。「最近、工作機関は、ウェブサイトにテキストや音声を隠すステガノグラフィーで指令を出すようになっている。工作員もネットを使う時代です。乱数放送をいくらキャッチしても工作員の動向はつかめませんよ。」

 日本警察のある公安捜査員も、国内での北朝鮮工作員の活動状況は分かっていないと、実態把握の困難さを明かす。

 「日本海沿岸部で怪しい電波が捕捉されても、警察官の人数が少なくて対応できていない。いったん日本に潜入されてしまうと、彼らは日本人の身分に背乗りしてしまう。発見するのは事実上不可能です」

<工作員のテロに備えよ>

 北朝鮮最強の工作機関は「朝鮮人民軍偵察総局」だ。偵察総局の工作員は、高級中学を卒業した17歳以上の中から、毎年500人選抜される。彼らは徹底した忠誠教育を受けたあと、金日成政治軍事大学に入り、スパイ活動や格闘技、爆弾製造、要人襲撃、爆破、無線などの訓練を受ける。重装備で山中を40キロも駆け抜けたり、交替で60キロ泳いだりする訓練もあり、訓練中に命を落とす訓練生も多いのだという。

 この教育課程の中には日本人化教育もあって、訓練生は日本人になりすますために語学や生活習慣、文化などを学ぶ。講師は日本から拉致された人物や在日朝鮮人の帰国事業で渡っていった日本人妻だ。地下の訓練場には日本の街を模した日本村もあり、訓練生はここでロールプレイングを繰り返す。こうした訓練を受けたうえで、日本人の身分を与えられて送り込まれるから、工作員は日本社会に完全に浸透している。そして電波やインターネットを使った暗号で、本国からの指示を受けて活動するのである。

 米国が攻撃に踏み切ったとき、北朝鮮がどう動くのかが、目下の注目点である。日本、韓国と言った近隣の同盟国へのミサイルによる報復攻撃ばかりがクローズアップされている。しかし、ラングーン事件や大韓航空機爆破事件といった爆破テロや金正男氏殺害のような暗殺工作も北朝鮮工作機関の常套手段だ。原子力発電所だけでなく、新幹線といった警備体制が脆弱な標的もある。生物兵器、化学兵器の散布も想定される。ミサイルへの備えも重要だが、もっとも身近にある北朝鮮工作員によるテロへの警戒も忘れてはならない。

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更新日時:5月24日 13時2分

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